生態系へのまなざし
【タイトル】 生態系へのまなざし はてな年間100冊読書クラブ-NO.3
【著者】 鷲谷いづみ ほか
【出版社】 東京大学出版会
【発行年月日】 2005年8月10日
【版型 頁数】 四六版 312頁
【版 刷】 初版1刷
【ISBN】 4130633252
【価格】 2940円
【コメント】
本書は、著者らが研究リーダーをつとめる、東京大学二一世紀COEプログラム「生物多様性・生態系再生研究拠点」の一環で行われた研究成果を基にし、更に1年半の検討を加えて編纂された本である。従って推敲に推敲を重ねたとあって、300頁ほどの標準サイズの本に実に多様な研究の成果が盛り込まれた“濃厚・高密度“な内容になっている。(あまりに濃厚なのでちょっとくどい感じがするのは私の思い過ごしだろうか?それから限られた頁内に詰め込みすぎたので事実関係の列挙が多く、物語として面白みに欠けるのではないか?何もこんなにたくさんのことを詰め込まなくてもいいのに・・・・・・。)出版当時から各方面で絶賛された本であること、私自身の関心が生態学から進化学を考えるということにあるため購入した。サイズ的には極普通のサイズであり、東京大学公開講座で一般人に向けてしゃべった内容を元にしているとはいえ、生態学という学問体系の性格上、大変に幅広い分野に渡った論考が続くので、気合を入れて向かわないと途中で投げ出す向きも多いかもしれない。
著者は東京大学農学生命科学研究科教授、『保全生物学・保全生態学』の先駆的な研究者である、確か数年前まで千葉大学に居られたと記憶するが、先年東大に戻られたようだ。
まえがきにある通り、破壊的とも言えるほどの開発により、大きく傷ついた地球環境を再生・保全することが我々の世代に課せられた課題である。そのためには広い意味での生態学の研究が必要であり、またその成果に基いた“行動”が求められる。本書はそんな一連の活動の記録でもあり、また今後の更なる活動の指針でもある。
本書のタイトル、『生態系へのまなざし』とは要するに、筆者らが生態系をどのように見、どのように考えるかというメッセージを読者に伝えたいということであろう。こういった問題は学者が研究するだけでは何にも進展しない。国際的な組織レベル、国内行政レベルでの行動・取り組みが必要なのは勿論、市民ひとり一人が考え、行動することが必要なのだ。我々一般市民も真剣に取り組んでいかなければいけないと思う。
【目次】
まえがき
第1部
序章 生物多様性と生態系 ・・・ 3
第1章 生態系へのまなざしの変遷 ・・・ 13
1 生態学と生態系 ・・・ 13 / 2 ダイナミックな生態系 ・・・ 18 / 3生態系を
とらえ直す ・・・ 28
第2章 生物多様性と生態系の危機 ・・・ 37
1 もう1つのキーワード ・・・ 37 / 2 現代の生物多様性の危機とは ・・・ 45
第3章 求められる生態系の科学 ・・・ 53
1 問題解決のための科学 ・・・ 53 / 2 問題解決の科学 ・・・ 58 / 3 参加と
共同の科学 ・・・ 63
第2部 ランドスケープ 生態系を俯瞰する ・・・ 69
第4章 ランドスケープと生態系 ・・・ 69
1 ランドスケープエコロジーの見方 ・・・ 69 / 2 時空間スケールで生態系を
とらえる ・・・ 74 / 3 攪乱がもたらす生態系の多様性 ・・・ 81
第5章 生態系を支えるランドスケープ構造 ・・・ 87
1 ランドスケープレベルの生態系の多様性 ・・・ 87 / 2 生態学的コリドーの
評価 ・・・ 95 / 3 過度な攪乱が生態系を守る ・・・ 101
第6章 地球の生態系再生 ・・・ 107
1 ビオトープ保全の生態系再生 ・・・ 107 / 2 都市圏の生態系再生 ・・・ 111 / 3
日本で始まった都市の生態系再生 ・・・ 117
第3部 生物多様性 生態系と遺伝子をつなぐ ・・・ 125
第7章 生物多様性と生態系の包みあう関係 ・・・ 125 / 2 なぜ生物多様性
なのか ・・・ 130 / 3 生態系の保全性と生物多様性 ・・・ 136 / 4 生態系の
不健全化 ・・・ 142 / 5 不健全化からの脱却 ・・・ 146
第8章 再生事業から見た遺伝子・個体群・生態系 ・・・ 153
1 失われた移行帯 ・・・ 153 / 2 不健全化した湖の現状 ・・・ 163 / 3 土壌
シードバンクからの植生再生 ・・・ 166
第9章 侵略的外来種の影響と対策 ・・・ 175
1 セイヨウオオマルハナバチの生態リスク ・・・ 175 / 2 外来緑化植物が
もたらす災禍 ・・・ 186
第4部 遺伝子 多様性のみなもと
第10章 遺伝子多様性のもつ意味 ・・・ 199
1遺伝子からの見方 ・・・ 199 / 2 生物多様性の起原と遺伝子 / 3 遺伝子と
生命史 ・・・ 215 / 4 遺伝子の多様性がもつ意味 ・・・ 218
第11章 遺伝的変異と生物多様性 ・・・ 225
1 遺伝的変異 ・・・ 225 / 2 集団における遺伝現象 ・・・ 232 / 3 小集団
内で起こること ・・・ 241
第12章 保全をめざす遺伝学 ・・・ 251
1 何を保全単位とすべきか ・・・ 251 / 2 集団の保全と再生 ・・・ 260 /
2 保全遺伝学の展望 ・・・ 272
第5部 生態系の保全と再生に向けて
第13章 生物多様性の保全 ・・・ 283
1 絶滅危惧種の保全・回復 ・・・ 286 / 2 外来種対策 ・・・ 292 / 3 生物
多様性保全のための研究 ・・・ 297
第14章 生態系の再生 ・・・ 301
1 生態系規模の実験 ・・・ 301 / 2 生態学的な植生再生のために ・・・ 305 /
3 健全な農林水産業のための生態系管理 ・・・ 309