お尻とその穴の文化史  


お尻とその穴の文化史
【タイトル】  お尻とその穴の文化史    はてな年間100冊読書クラブ−No.049 
【著者】    ジャン・ゴルダン、オリヴィエ・マルティ
【出版社】   作品社
【発行年月日】 2003年8月25日
【版型 頁数】 四六版 265頁
【版 刷】   初版9刷
【ISBN】    4878935669
【価格】    2520円
【コメント】
本書はフランスで刊行された医学書であるが、著者らの意図により堅苦しくなるのを避けるため、学術的な内容に加え、文化的・芸術的・性的な側面を盛り込んだ文化史の本でもある。著者2名はともに消化器を専門とする医師である。内容のおよそ7割方は肛門に関する医学的な内容である。即ち解剖学、生理学などの初歩的な解説、病気とその対処法などに関する実用的な本でもある。
但しタイトルがタイトルである。このタイトルを目にしただけでなにやら怪しげな内容を連想したのは私だけではないだろう。そう確かにアナル・セックスなど現代ではタブーとされる内容についても長い歴史があることを本書は語っている。しかし実に冷静に、淡々とそしてあっけらかんと解説してしまう。この辺が如何にもフランス的というべきだろうか?性の多様性にも極めて寛容というか、それぞれの自由を尊重すべきだという態度で記述している。訳者の書く日本語文がまた淡々としており、実に嫌味が無い文章だ。これほどあっさりとした日本語にするには、相当にてこずっただろうなと想像している。訳者の御努力に敬意を払うべきであると思っている。
それにしてもフランスという国はなんとも面白い国だ。こういった“性”についての記述に嫌味が無く、実に堂々としている。じめじめした暗さが全く無いのである。それに小説の挿絵に具体的な性の様を描いたり、わざわざ版画を記録として残したりと、後世にもその時代が理解しやすい形で保存されている。本書にもその絵や図版が多数掲載されているが、実に多彩な内容である。裸婦を描いた絵画があると言うのは理解できるが、そもそも”アヌス”がらみの図版がなんでこんなにあるのだろうかと思ってしまう。『浣腸』を描いた絵などが小説の挿入図に使われていると言う。これは多分、自国文化への自信というか自負というか、要するに敬意の念が強いからなのだろうと思う。本書にいくつも登場するように、便座に座った若い女性やおまるを抱えた女性の写真が絵葉書に載るということも日本では考えられない構図だろう。
以上のように、本書は”お尻とアヌス”についての医学的・文化史的な論考が中心であり、極めて真面目な本である。当然ながらポルノ小説の類では決して無い。しかし、学術書的な内容であるにもかかわらず、日本での出版から3年弱の間に9刷を重ねているので、相当に売れていると思われる。このようなテーマに関心のある読者が相当に多いのはちょっとした驚きであった。
この版元は日本の名随筆シリーズで有名な出版社である。本書の他にも『ヴァギナの文化史』、『ペニスの文化史』、『うんち大全』、『強姦の歴史』など"大変なタイトル"が揃っている。いやはや何とも言い様が無い、もの凄い表題ですなぁーと言うしか無い。
最後になるが、私は何でこのようなタイトルの本を購入し、読了したのだろうか?読者氏もそう思われるかもしれない。実は、今は必要ないがいずれ必要になるかもしれないからである。具体的にどんな必要かについては敢えてここではふれない。できれば必要としないで一生を終えることができる様、切に願っている次第である。
【目次】
序文 ・・・ 鄱
第Ⅰ部 アヌスとは、いかなるものか? ・・・ 13
第Ⅱ部 アヌスの機能とそれをめぐる歴史 便秘と下剤の物語 ・・・ 21
第Ⅲ部 アナル・セックスの歴史 ・・・ 81
第Ⅳ部 芸術とアヌス お尻とその穴に見せられた人々 ・・・ 99 
第Ⅴ部 すこやかなるアヌス ・・・ 181 
第Ⅵ部 すこやかならざるアヌス ・・・ 187
結語に代えて ・・・ 258
謝辞 ・・・ 260
訳者あとがき ・・・ 261
参考文献一覧 265

ヴァギナの文化史 ペニスの文化史 うんち大全 強姦の歴史