20世紀・高度成長日本


20世紀 高度成長日本 (中公文庫)
【タイトル】  20世紀・高度成長日本   はてな年間100冊読書クラブ−No.070
【編著者】   読売新聞20世紀取材班    
【出版社】   中央公論新社(中公文庫BIBLIO S17-7)
【発行年月日】 2001年12月10日
【版型 頁数】 文庫版 274頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4122039509
【価格】    680円
【コメント】
本巻は読売新聞20世紀取材班による20世紀シリーズの第7巻。手頃な“昭和史読本”あるいは“”昭和史史料“として大変に読みやすく、有用なシリーズである。
表題にある高度成長に関する記事は最後の60頁ほどだけで、前半部が全てGHQ・占領軍の政策と経過、その後に日本における民主主義の成立過程が解説される。要するに戦後の高度成長に繋がる“日本の復興”についての記述であろうと思われる。第6巻にあった世界情勢としての『冷戦』が進行する中、国内での戦後処理、GHQの活動、東京裁判などが前半部の主な内容である。また民主主義の章においては、日米安保社会党の台頭、沖縄本土復帰、北方領土などについて解説されている。何故か普通選挙などについては全くふれられていない。
GHQの施策は善きにつけ悪しきにつけ日本の戦後を決定付ける上で重要な役割を担ったはずだから、これを理解しておくことは昭和を知る上でも大事だと思う。本書ではそのエッセンスのみの軽い解説だけなので、いずれもっと詳しいものをあたってみたいと思う。
民主主義の項でなぜ吉田茂が挙げられているのか疑問だが、彼の「経済専念」の復興方針は戦後日本の進路において決定的なものとなったようだ。ここであくまで自主独立、中立化、再軍備化、食料優先などの政策を採っておれば、日本の歴史は現在のものとは大きく変っていたかもしれない。米国が何処まで日本の独自性を許したかは分からないが…・・・。
戦後直ぐの時期は、新しい価値観の基に日本国中が議論・議論の大合唱で、誰もが声を大にして国造りを語っていたらしい。平成の太平楽な世相とは大違いだ。そんな中、日米安保条約の締結となって、それこそ大騒ぎになった。この辺の話は以前にも少しだけだが聞いたことがある。学生運動なるものが途方も無いエネルギーとなって大学を包んでいた時期である。
その後の高度経済成長期については私も小さかったとはいえ、物心付いてからのことなので僅かながらの記憶がある。新幹線の開通に沸きあがり、東京オリンピックの開催、大阪万博、大団地の出現*1文化住宅*2の登場などそれほど古い話ではないが、今では随分と昔のように感じられる。
など、この時代は私にも実感が少しばかりある時代でもあるので、やや感傷的というか回顧的というか私的体験とダブって物語が進行する場面が幾つもある。だから妙に懐かしくも有り、感慨ひとしおである。しかしあまり私的な経過追い求めるだけでは駄目だろう。単なる物語だけではなく確固たる史料を基により詳しくこの時代を知っておく必要があると思っている。
【目次】
1 GHQ
連合軍、佐世保進駐 東洋一の軍港、緊迫の朝 … 10 / 
東京裁判 勝者の裁きか、文明の裁きか … 14 / BC級戦犯はどう裁かれたか … 38 / 
日本の賠償 米の政策転換で免れた「生産基盤」破壊 … 47 / 
財閥解体 米国内でも大議論呼んだGHQの政策 … 55 / 
農地改革 明治期以来の増産政策が原点に … 59 / 
GHQの教育改革 「カリキュラム」ってなんですか? … 66 / 
エリート教育・旧制高校の青春 … 79 / 旧制高校・もうひとつの青春譜 ある六高生の軌跡 … 86 / 
竹刀を折られた剣士たち GHQの武道弾圧 … 96 / 
占領政策と「言論の自由」 あらゆるメディアを監視下に … 105 / 
プランゲ文庫」に殉じた日本人女性 … 118 歌舞伎を救ったGHQ検閲官 … 124 / 
戦争と科学技術 怒涛の半生 … 134 / ドッジ・ライン バンカーが提唱した「安定政策論」
 … 142 / シャウプ勧告 後の消費税つながる税制革命 … 147
2 戦後民主主義
吉田茂の選択 「経済専念」で成功を神話化 … 156 / 日米安保の源流 
講和工作に取り組んだ芦田均の役割 … 164 / 日米安保条約の謎 … 168 / 
青年よ銃を取るな 両刃の剣となった社会党のスローガン … 176 / 
曲学阿世論争 時の首相と東大総長、「講和」をめぐり対立 … 182 / 
再軍備 「警察予備隊」緊急設立の背景 … 186 / 
砂川・米軍基地闘争 十四年に及んだ対立、流血の惨事も … 190 / 
米統治下の沖縄 共産勢力への戦略拠点化狙う … 199 / 
沖縄本土返還 「民族的願望」成就の舞台裏 … 205 / 
「ミスター北方領土」 末次一郎の証言 … 208
3 高度経済成長
「日の丸原油」を求めて 石油開発苦難の道のり … 220 / 
「夢の超特急」新幹線が走った 高度成長支えた大動脈 … 229 / 
トヨタの「かんばん方式」 世界が認めた生産管理 … 238 / 
電源開発の光と影 福島・只見川に賭けた技術者の記録 … 247 / 
ON時代 高度経済成長期のプロ野球 … 254 / 古い建物を「近代化遺産」に 
保存・再活用への動きが活発化 … 261
参考文献 ・・・ 268
執筆者・掲載日一覧 ・・・ 272

*1:一戸建てではなく大規模な集合住宅の建設が始まったのがこのころ。要するに賃金労働者が激増し、住宅のあり方そのものが変革した結果であろう。

*2:今では死語になっているが、2DKのマンション形式の集合住宅を当時こう呼んだ。核家族の典型住宅となった。