98%チンパンジー


【タイトル】  98%チンパンジー
98%チンパンジー―分子人類学から見た現代遺伝学
【著者】    ジョナサン・マークス
【出版社】   青土社
【発行年月日】 2004年11月25日
【版型 頁数】 四六版 393頁
【版 刷】   初版 2刷
【ISBN】    4791761561
【価格】    2840円

【目次】
はじめに
第1章 分子人類学
  チンパンジーに立ち向かう科学/遺伝学的な対比と
  解剖学的な対比/99.44%純粋な人間
第2章 あなたの中の類人猿
  分子人類学の重要な誤り/文化活動としての分類
第3章 人間の違いかた
  科学的な組織化原則としての人類/リンネ科学としての形質人類学/
  人種的な侮辱としての「チンパンジー
第4章 人間の多様さの意味
  人間の起原について/人間の集団間に常に見られる違いは遺伝的なものか/
  異なる人々には異なる可能性があるのだろうか/
ネアンデルタール人」:謎めいた隣人
第5章 行動遺伝学
  虫と人間/氏と育ちの間で/同性愛の遺伝学/人間における行動の変異の範囲/
  人類遺伝学の責任と見解/より広い見通し
第6章 通俗遺伝観
  行動主義/人種主義/遺伝主義/本質主義/責任と通俗遺伝観
第7章 人間の本性
  類人猿と人類/文化的投影/自然な人間/自然な性/唇を持つアヒル
第8章 類人猿にも人権?
  文化/大型類人猿プロジェクト/類人猿は不自由な人間にすぎないのか/
  判コックの6匹/類人猿の心を読む/世間に訴える
第9章 人間遺伝子の博物館?
  ヒトゲノム多様性計画/計画に対する反対意見/人種と計画/
  生命倫理の先端/HGDP死の苦しみ/安らかに眠れ
第10章 アイデンティティーと血統
  誰そして何/クローニング/ケネウィック人―フレンチ-インディアン戦争/
  誇大宣伝/ケネウィック人をあきらめる/しめくくり
第11章 血はほんとうにそれほど濃いのか
  血液の本質化/親戚とは何か/ケネウィック人の見納め/類縁関係と類猿関係/
  創造論での異端思想/類人猿と人間/また別の計画などーもう結構
第12章 科学、宗教、世界観
  優生学運動/教訓/相対主義と科学/権威と正確さ/科学と神話/
自民族中心主義と科学の将来
謝辞
人間の測りまちがい―差別の科学史
ペーパーバック版への追記

訳者あとがき
文献注
人名索引
【コメント】
著者は米国、ノース・カロライナ大学人類学教授。最初表題を見たときは分子人類学の解説書かと思った。読み進めていくうちに、科学の責任、あり方、限界などに対する論考であることがわかった。
いまどき、人種とその能力、可能性などについて人類学の専門雑誌に論文が載るということ自体がよく理解できないが、そういった『人種主義』、『遺伝主義』、『通俗遺伝観』と分子人類学との混同などの危険性について指摘し、丁寧に反論し、人類学ひいては科学のあるべき姿を指し示すというのが本書のねらいである。大型類人猿プロジェクト、ヒトゲノム多様性計画など超大型研究の予算獲得の目的で、これらの恣意的な表現、活動がずいぶんと本来の人類学や科学を捻じ曲げているというか誤って一般大衆に伝えられていることに大変苦慮しているようだ。かつて優生学運動や人種差別の『科学的根拠』として遺伝学や人類学が誤用、悪用されたという歴史的経験も大きいと思う。このあたりは、S.J.グールドも人間のはかり間違い・河出書房新社ISBN:4309251072、批判している。
本書を読んで思うのは、客観的な科学というのはかくも脆いものかということである。データ解釈の仕方によって、いかようにも結論付けられる。極端に言えば、どう解釈するかはその研究者の『勝手』なのである。その結果いろいろな結論が導かれる。権力者、為政者側が都合よく利用したのがかつての優生学運動であり人種差別政策なのである。
ヒトゲノム多様性プロジェクトは世界の学会を巻き込み、先年一応終了したが、本書で指摘されたような問題をはらんでいるとは知らなかった。この計画の内容についてほとんど何も知らなかっただけにもう少し詳しく知らなければいけないと思っている。