国語辞書事件簿

国語辞書事件簿

【タイトル】  国語辞書事件簿
【著者】    石山茂利夫
【出版社】   草思社
【発行年月日】 2004年11月29日
【版型 頁数】 四六版 271頁
【版 刷】   初版 1刷
【ISBN】    479421362X
【価格】    1890円
【目次】
はじめに − ミステリアスな辞書 … 3
第一章 激突! いろは対五十音 … 11
   明治人には新しい時代の波だった五十音/福沢諭吉言海批判/
   大槻文彦の実験/言海草稿の表紙は語る/利用者に資格を
求めた辞書/いろは層のための辞書群/根強かったいろは支持
第二章 大言海八万語説の背景 … 45 
   広辞苑新村出の代表作ではない?/大辞林抗議でシブシブ
   <編広辞苑を追加>/金田一京介は特別扱い/国語辞書は
   仲間に冷たい/毛虱の体長はあるのに…/大日本の見出し語
   二二万?二〇万四000/大言海の見出し語―八万?九万八000?/
   荒涼とした研究風土の象徴/新村出の勘違い、他の辞書を走らす?/
   「日国」の根拠は見坊データ?/「日国」に浅知恵を笑われる
第三章 誇大広告ファイル … 73  
   辞書のズルを見破る方法/看板に偽りあり!「大辞泉」増補版/「広辞苑
   に見る優等生的ズルさ/営業用リニューアルの手本?「広辞苑」二版増補版/
   「角川国語大辞典」の怪/現代語主義の元祖は「角川国語中辞典」/好機を
   逃した角川書店/「新明解」二版は増刷並みの見直し/「新解さんの謎
   私の場合
第四章 悲劇の名辞書 … 105
   名辞書「例解国語辞典」の悲劇/「違和」追加に違和感/謎の「側室」登場/
   「レイカイ」に事件のにおいを嗅ぐ/改変の基本台帳を作る/「レイカイ」の
   追加語群、初公開/追加語の特性を見つけた!/辞書にはストーリーがない/
   「レイカイ」のマル秘手直し大作戦/「レイカイ」には、“欠陥版”がある/
   据え膳だった?「レイカイ」事件取材/辞書の神様は気が長い
第五章 「広辞苑」のルーツ発見・序 … 145
   糊とハサミで作った辞書/新村父子、参考辞書を公表/「辞苑」の親辞書は
   ライバル辞書?/「言海」序文のナゾに挑む/「疑わしきは模倣とせず」/本物のデータが
   無いわけ/模倣隠しの裏技「組み合わせ」法/額鳥はほがらかに鳴く?
第六章 「広辞苑」のルーツ発見・破 … 171
   「広辞苑」のルーツ発見/外来語の親辞書は新語辞典?/「五十音」は証言する/
   延々と続く模倣のパレード/「言林」序文は新村出の懺悔!/松井簡治の容赦ない指弾/
   参考辞書告知は“新村トリック”?/老いらくの自画像/満足のウチ
第七章 「広辞苑」のルーツ発見・急 … 203
   息子による容赦ない告発「『辞苑』『広辞苑』は模倣の産物」/新村出
   名義貸しに近い編者/「内助の一老友」の証言/単行本並みに辞書を量産/
   モラルを疑う“辞書事業”告発の狙い/模倣の痕跡を残したナゾ/新村師弟の
   著作権観/模倣の相関図/松井簡治の目線/「編者はわれ一人」宣言/「一日
   三三語、二〇年」/帝国大学の図書館をコケにした男/虎の尾を踏んだ?
   新村出/サラブレッドの不実/辞書界が当面している「轆轤(ろくろ)がな」
   問題とは/商売道具は大切に
あとがきに代えて … 253
付録1 辞書 − 知っていてソンはない辞書・この本で使った辞書 … 257
付録2 模倣例 − 「辞苑」の親辞書探し調査結果 … 262
【コメント】
著者は元読売新聞記者、文化部長などを歴任した人。事件記者さながらの『執拗さ』で国語辞書の成立、特に語釈・用例の系譜を調べ尽くした渾身のレポートである。
第1章では、江戸時代から明治時代に入り、それまで学者や一部の殿様など特定の人達だけが読者であった『辞書』が一般人にも利用されるようになり『いろは』順から『五十音』順に変わっていった様が描かれている。しかもいろは順はかなり抵抗したらしく、なかなか五十音順は定着しなかったようだ。
第2章ではそんな五十音順表記のスーパースター、『言海から大言海へ』の変遷を綴っている。第3章、第4章では辞書界の裏話、売らんがための苦肉の改訂、インチキ編集の実態が暴かれる。この辺は今にも通じるものがありそうである。
さて本書のメインというかもっとも著者が読者に訴えたかった章が5章以下である。新村出編・広辞苑岩波書店にまつわる調査結果・論考である。この『広辞苑』は現在の国語辞書界にあって、最も権威のある存在であると多くに人たちが思っているようだが、実はこの広辞苑にも相当に暗い過去があるのが明らかにされる。編者の新村は単なる名義貸しで、殆ど編集には関与せず、弟子が1人で書き上げた、先行する国語辞書3種を『親辞書』として、殆どハサミとノリで作ったなど衝撃的な内容となっている。また辞書編纂を通じて、国語学者の国語辞書に対する姿勢がかいま見え、やたらと権威主義的な構図がうかがえる。
身近なところで誰もが多くの恩恵を受けている国語辞書が、実はその成立から今日まで意外と暗い歴史を引きずっているのだなーと思った。