生命40億年全史

zyugemu2006-02-21


【タイトル】  生命40億年全史
【著者】    リチャード・フォーティー
【出版社】   草思社
【発行年月日】 2003年3月10日
【版型 頁数】 四六版 483頁
【版 刷】   初版 2刷
【ISBN】    4794211899
【価格】    2520円

【目次】
第1章 悠久の海
  極北のスピッツベルゲン島を往く/ハンマー一振りの幸運/尽きることのない新発見/
  壮大な時間の尺度/人生を分けた1枚の紙切れ/目的論というなの化け物

第2章 塵から生命へ
  降り注ぐ生命の素/新たなる賢者の石を求めて/原始スープと生命の作り方/エネルギーを拝借/
  最初の細胞はどこで生まれたか/生命は宇宙から飛来した?/世界を変えた小さな者たち/
  太古からの使者ストマトライト/共生する生命と地球/たった1度の奇跡

第3章 細胞、組織、体
  キノコは野菜か?/動物とはいったい何か?/謎のエディアカラ動物群/驚くべき多様性/
  エデイアカラ動物とは何者か?/二十億年続いた世界を襲った大激変

第4章 私のお気に入りと仲間たち
  硬い殻の出現/食うもの、食われるもの/奇妙きてれつバージェス動物群/古生物学会の
  教皇グールドの功罪/なぜ「爆発的」進化は起こったのか?

第5章 豊饒の海
  たかりの構図/海は今も進化の舞台/礁という生き方/謎の動物コノドントとは/オルドビス紀の  世界地図を探して/時を告げる象形文字、筆石類/忘れられた偉人、ラップワース/
  ある無名ナチュラリストの悲劇/氷河時代の運試し

第6章 陸上へ
  緑の効能/植物の上陸戦略/古生物学者の聖地で/まず節足動物が上陸した/「歩く魚」の
  はじめの1歩/デボン紀の魅力と誘惑/詐欺師V.J.グブタの教訓/化石に残らない歴史を求めて/
  分岐論騒動

第7章 森の静謐、海の賑わい
  石炭紀のある森の風景/森の名残/種子と卵―進化の新たな戦略/地上から空中へ/大きなもの、
  長生きなもの/「化石の森」/海を賑わす生き物たち

第8章 大陸棚
  生命の痕跡/さまよう大陸/超大陸パンゲアの風景/爬虫類の繁栄/史上最大の絶滅劇

第9章 壮大なものと控えめなもの
  なぜ恐竜は人気があるのか/恐竜復元への長い道のり/ディズニーとスピルバーグの挑戦/
  鳥は恐竜か/海の巨大爬虫類たち/恐竜の時代の小さなヒーローたち/花と昆虫の愛憎劇

第10章 終末理論
  天変地異をめぐる大激論/物理学者のもたらした驚くべき証拠/隕石衝突説の思いがけない
  衝撃/そのとき、恐竜に何が起こってのか/K.T絶滅を生きのびた者たち/大量絶滅は
  我々にも訪れる?/恐竜復活計画

第11章 乳飲み子の成功
  日陰者の大躍進/歩くクジラと五本指の馬/引き裂かれた大陸に乗って/栄華をきわめた
  カンガルー/強大なナマケモノと凶暴なダチョウ/メッセル油頁岩から見えてくるもの/
  知能という戦略/すべての肉は草

第12章 人類
  サルとヒトはどこが違うのか/「欠けた環」を探して/足跡は語る/絶滅した類人猿たち/
  石器を見ればわかること/ホモ・サピエンスVSネアンダルタール人/意識は人間だけの
  もの?/旅するホモ・サピエンス/かくして歴史は始まった

第13章 偶然の力
  無数の幸運と不幸/偶然だけではない/40億年、生命が奏でるボレロ

訳者あとがき
索引
ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)
【コメント】
発売当時、各方面の書評で絶賛され、随分と話題になった本である。3年余り本棚に眠っていたが、昨年11月の引越しの際に出てきたので読むことにした。
著者は大英自然史博物館主任研究員、ブリストル大学客員教授、古生物学、特に三葉虫の研究を専門としている。
この本の特徴はまず何といっても日本語、訳文の美しさである。第1章 悠久の海 は本書のプロローグに相当するが、これを読み始めての第1印象は、これは文学であると思ったことである。原書がすばらしいのは勿論だろうが、訳者の書く日本語文がいい。
海での生命誕生、ストラマライトから細胞へ、多細胞生物へという流れを丁寧に説明しているので、一般読者にもわかりやすい。また本書の第2の特徴は、著者の研究生活、他の研究者の言動が盛り込まれており、物語風に話が進行する点にある。この手の本では珍しく著者本人がいろんな場面で舞台に登場するのである。その結果、読んでいてわかりやすく、親近感がもてるので、読者(私)の集中が途切れず一気に読ませることになる。第4章 私のお気に入りでは、三葉虫の専門家としての面目躍如というか、その頃生きていた生物の解説、研究方法などについて生き生きと説明している。またバージェス頁岩での動物群のくだりにおいては、その解釈について、『教皇グールド』の主張を一蹴している。このあたりはバージェス動物群の研究を担当したブリッグス、モリスらの先輩に当たる著者を含めたケンブリッジ派?VSグールドという論戦の図式が面白い。(S.J.グールド・ワンダフルライフ早川書房ISBN:4150502366)  
不満な点を1つ、タイトルに全史と名打ってはいるものの、魚類、両生類にはほとんど触れられていない点が大変残念であった。おそらく頁数の関係から解説を省略したのだろうと思うが、ぜひこれらの説明も入れてほしかったと思う。
以上大変に読みやすい本で、一気に読み終えた。古生物学、進化の知識のない読者でも集中が途切れず読み進めることができる点でお薦めである。
なお参考までに、脊椎動物全体の進化を解説した本として、奥野良之助・『魚陸に上がる』・創元社・ISBN 4422932721(この頁の最上部、右側の写真)を上げておく。