家父長制と資本制


家父長制と資本制―マルクス主義フェミニズムの地平
【タイトル】  家父長制と資本制 マルクス主義フェミニズムの地平
        戦後思想の名著50・第47巻
【著者】    上野千鶴子
【出版社】   岩波書店
【発行年月日】 1990年10月31日
【版型 頁数】 四六版 330頁
【版 刷】   初版22刷
【ISBN】    400000333X
【価格】    2835円
【コメント】
  『戦後思想の名著50』・平凡社の第47巻として購入した。この50冊の全巻制覇計画を開始しているが本書が記念すべき第一作目となる。最初はできるだけ古い物から順に読みたいと思っていたが、どうやら全てを集めるのが困難なようなので古い新しいや出版の順序にこだわらず、手にすることが出来たものから読んでいこうと考えている。
  本書は、著者がまだ京都にいる頃の出版であるが、名著の多い岩波書店にあってひときわ良く売れている本であるらしく、文庫版やライブラリー判にもならず、ハードカバーのままなんと22刷という大ロングセラーとなっている。著者は現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授、社会学フェミニズム専攻、この分野の第1人者として多くの著作、翻訳がある。またそもそもの発端となった『戦後思想の名著50』の選者・編者でもあり第1作にふさわしいこの本を選んだ。
  本書では副題に、『マルクス主義フェミニズムの地平』とあるように、欧米で提唱・発展してきたマルクス主義フェミニズムの理論に添って、日本の実情を照らし、考察するというスタイルで論稿が展開する。
  家父長制とは要するに、主人(家主)を長とする家庭内ピラミッド型の意思決定制度、また資本制とは、文字通り経済システムとしての社会的体制・資本主義体制を意味するのだと理解される。フェミニズムの目的、めざすものは『女性の開放』であり、経済システムとしての資本主義体制を踏まえた上で、家庭内外で『女性を解放』するためにどう考え、行動するかを指し示そうとするものと私は理解している。
  本書によると、この『女性の開放』を理論化した3つの思想があるという。①社会主義婦人開放論、②ラディカル・フェミニズム(俗に言うウィメンズ・リブ)、③マルクス主義フェミニズムである。歴史的に①、②の理論的破綻から③が展開されてきたとする。このあたり女性解放とマルクス主義という見方があったというのは知らなかったが、なるほどと思わせるものがある。以後は資本制の問題と労働者としての女性及び家族内での女性という図式で展開していく。
  私は、『スカートの下の劇場』・河出書房・1989.(当時出版界でかなり話題になった本)あたりからこの人に注目しており、啓蒙的な内容のものをいくつか読んだことがあったが、専門的なものを読んだのは今回が始めてである。後から知ったことであるが、この頃からアカデミズムの世界でこの著者が評価されるようになったそうである。当時は京都にある何とか女子大学の助教授だったと記憶するが、本書刊行後、一気に東大教授へ大躍進したのである。
  なお我国のフェミニズム界では、本書の原型の論文が出版されてから以後、大論争が巻き起こったという。特にこの著者と、東京都立大学(現在は首都大学東京)・江原教授との間の議論は相当に激しかったそうである.何が議論されたのか少し調べて見なければと思っている。

【目次】
PART 1 理論篇
第一章 マルクス主義フェミニズムの問題構制 … 3
  1 マルクス主義と女性解放 / 2 市場とその<外部> / 
  3 マルクス主義フェミニズムの成立 / 4 ブルジョワ女性解放思想の陥穽/
  5 近代批判としてのフェミニズム
第二章 フェミニストマルクス主義批判 … 18
  1 階級分析の外部 / 2 <市場>と<家族>:その弁証法的関係 / 
  3 性支配の唯物論的分析第三章 家事労働論争 … 31
  1 「家事労働」の発見 / 2 愛という名の労働 / 3 ドメスティック・
  フェミニズムの逆説 / 4 日本の家事労働論争 / 5 イギリスの家事労働論争
第四章 家父長制の物質的基礎 … 56
  1 家父長制の定義 / 2 「家族」:「性支配」の場 / 3 家父長制の
物質的基礎 / 4 女性=階級?
第五章 再生産様式の理論 … 69
  1 生産至上主義 / 2 家内制生産様式 / 3 「生産様式」と「再生産様式」の弁証法
第六章 再生産の政治 … 89
  1 セクシャリティーの領有 / 2 「家父長制」再考 / 3 子供数の決定因 /
  4 再生産費用負担の不平等 / 5 世代間支配 / 6 娘の価値 / 7 子供の叛乱 /
  8 家父長制の廃絶
第七章 家父長制と資本制の二元論 … 111 
  1 統一理論か二元論か / 2 ネオ・マルクス主義フェミニズムか /
  3 資本制下の家事労働:統一理論の試み / 4 家父長制の配置 /
  5 二元論の援護補論 批判に応えて … 130
PART 2 分析篇
第八章 家父長制と資本制 第一期 … 163
  1 工業化とドムスの解体 / 2 再生産の「自由市場」 / 3 「近代家族」の成立 /
  4 ヴィクトリアン・コンプロマイズ / 5 「家」の発明
第九章 家父長制と資本制 第二期 … 184
  1 第1次世界大戦と1期フェミニズム / 2 未婚女子労働市場の成立 /
  3 恐慌下の家族のケインズ革命 / 4 高度成長期とⅡ期フェミニズム /
  5 主婦の大衆化と「女性階級」の成立 
第十章 家父長制と資本制 第三期 … 200
  1 M字型就労 / 2 「主婦労働者」の誕生 / 3 パートタイム就労の「発明」 /
  4 日本資本制の選択 / 5 資本制と家父長制の第二次妥協 / 6 女性の二重役割 /
  7 生産と再生産の弁証法 / 8 八〇年代の再編
第十一章 家族の再編Ⅰ … 230
  1 人口という資源 / 2 出生抑制と「再生産の自由」 / 3 家族解体―危機の言説 /
  4 「中断―再就職」型のワナ / 5 再生産と分配不公平
第十二章 家族の再編Ⅱ … 256
  1 移民労働者 / 2 中断―再就職型の陰謀 / 3 再生産のQC思想 /
  4 日本資本制の選択
第十三章 結びーフェミニストオルタナティブを求めて … 273
  1 国家・企業・家族―再編の時代 / 2 経済学批判 / 3 「労働」概念の再検討 /
  4 「自由な労働」と「労働からの自由」 / 5 「労働」の転倒 / 6 フェミニスト
  オルタナティブ
付論 脱工業化とジェンダーの再構成 … 295
参考文献 … 309
あとがき … 327
人名索引