敗者学のすすめ


ISBN:4582702252
【タイトル】  敗者学のすすめ(市立図書館より借用)
【著者】    山口昌男
【出版社】   平凡社
【発行年月日】 2千年2月21日
【版型 頁数】 四六版 390頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4582702252
【価格】    2100円
【コメント】
  著者は東京外国語大学教授、静岡大学教授を経て、札幌大学学長を歴任し、先年退官されたとのこと。文化人類学者として知られるが、元々は史学(日本史)の出身で、札幌へ移ってからは歴史学へ回帰した部分もあるそうだ。
  名前しか知らなかったが、坪内祐三氏のエッセイに、『年上のお友達』として度々登場するので、軽い書物を書く評論家かなにかと勝手に思い込んでいた。これはとんでもない間違いで、実は文化人類学の大先生で、ものすごい質・量の著作のある人であることを最近になって知った。なお今、相当にこだわっている『戦後思想の名著50』・平凡社にもその著作『文化の両義性』・岩波書店(下段参照)が入っているので、私にとっての“必読の人“と位置付けている。
  本書は名著とされる『敗者の精神史』・岩波書店「敗者」の精神史〈上〉 (岩波現代文庫)に続いて、各方面で発表した『敗者学』に関する論考・エッセイを1冊にまとめたものである。分厚い本であるが、各項は短くどこからでも読めるので、場所を選ばずに読めそうである。
  著者の提唱する『敗者学』とは、勝者側からの切り口・見方だけでなく敗者からの観点から文化・歴史・文学等を見直し、再評価を行うことが現在の学問に求められているという主張が発端になっている。即ち日本近代史のパラダイムは勝者の論理が中心になって作り上げられ、“敗者の役割”を考慮していないというのである。このあたりが著者の思想の核心部分になっているようだ。従って敗者の研究をすすめ、再評価することが今後の学問に重要であると著者は言うのである。
  なるほどそうであったかという感じがする。学問だけでなく世間一般、社会全体がそういう評価システムで動いているといっていいのではないか?ならばもう一度考え直さなければいけないなと思う。
  本書に登場する人々は別に無能だから敗者となったのではない。たまたま歴史の流れに乗り切れなかったというか、タイミングがほんの少しだけ悪かったというか、勝者とは実に微妙な違いがあっただけで、その能力が劣っていたわけではないのだろうと思う。そういう意味では『有能ではあるが結果論として勝者になれなかった人々』の研究というのはあらゆる領域でなされるべきだろうと思われる。それがその後の“教訓”になるのだから。
【目次】
はじめに … 3
序章 
親子は最初のネットワーク 井上ひさし・山口 昌男 … 9
第一章 幕末・明治の人々
 旧幕臣と近代日本の黎明 … 27 / 敗者の歴史に学べ … 44 / 実業家こそ
 近代日本の体現者 … 72 / 失意の企業家から学ぶ … 76 / 「明治事物起源」の
 ひとつの読み方 … 81 / 魯迅日記の魅力と独自性 … 97 / 山本東次郎への
 旅 … 121 / 明治の報道絵画 … 131 / 文化現象を縦として
 横に繋ぐ … 135 / 父谷斎の影 … 143 / 紅葉と都市モダニズム
 形式 … 148
第二章 大正・昭和の人々
 日本の一九二〇年代 … 155 / 古雑誌を読み楽しむ … 177 / 「立秋」の俳諧的小宇宙  − 建堂・境音・未醍 … 181 / 井上房一郎をめぐる人々 − 大正・
 昭和前期 … 209 / 田河水泡を読む − 近代日本漫画のアルゲオロジー 
 ・・・ 224 / 梅原北明のセンス ・・・ 244 / 梅原北明と仲間たち ・・・ 248 /
 軟派な言動の裏に潜む和漢洋に通じた大読書家 − 永井荷風 ・・・ 252 /
 天皇を相対化した軍人 ・・・ 257 / ハルピン都市物語の大叙事詩 − 安達良和
 「虹色のトロツキー」・・・ 271 / 宮沢賢治の祝祭空間 ・・・ 276
第三章 書評から
 明治の学者 締めは漫画の自分史 − 依田学海「学海日録」別冊 「学海先生一代記」
 ・索引 ・・・ 301 / 明治の文人ネットワークの面白さ − 「森銃三」著作集続編
第五巻・人物篇五 ・・・ 305 / 京都の精神史たどる愉しさ − 住谷一彦・住谷啓
 「回想の住谷悦治」 ・・・ 308 / 明治の美と遊びの達人たち − 木下直之
 「美術という見世物」 ・・・ 312 / フランス人の占有物でないパリ − 今橋映子「異都憧憬
 日本人のパリ」 ・・・ 315 / 「分野」はみだした境界人たち − 「日本児童文学
 大事典」 ・・・ 319 / 小杉未醒「絵本西遊記」をめぐって ・・・ 322 / 文化の
 連続性を確信する足どり − 中野翠「会いたかった人」 ・・・ 330 / 集合的記憶
 掘り起こし − 坪内祐三靖国」 ・・・ 335 / 一冊の本 − 斎藤昌三「書淫行状記」 ・・・ 340 / 先鋭芸術運動の華麗なネットワーク − 大正・昭和
 アヴァンギャルドの魅惑 ・・・ 347 / 古本屋で過ごした最良の時 ・・・ 354 
第四章 日本の人類学
 日本における人類学の歩みとその可能性 − 文化人類学と経済人類学 ・・・ 361
初出一覧 ・・・ 379
人名索引 390