科学の剣 哲学の魔法
【タイトル】 科学の剣 哲学の魔法 ― 構造主義科学論から構造構成主義への継承
【著者】 池田 清彦,西條剛央
【出版社】 北大路書房
【発行年月日】 2006年3月10日
【版型 頁数】 四六版 272頁
【版 刷】 初版1刷
【ISBN】 4762824933
【価格】 1680円
【コメント】
著者は、早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏、お茶の水女子大学等の非常勤講師である西條剛央氏。池田による構造主義科学論から理論を発展させ、西條の構造構成主義に至る展開を対談形式で論じた内容を本にしたもの。理論の話ばかりではなく、本を書く、本を読むなどの話題もあり、退屈せずにいられる内容となっている。サイズ的には四六版で2百数十頁だが話し言葉が中心であるため、実際は1/3ぐらいの分量に感じられる。
池田の構造主義生物学及び構造主義科学論には発表当初より注目しており、いくつかの著作を読んできた。ここ何年かは池田が理論生物学的な発言をしてなかった(要するにこの方面での著作が発表されてなかった)ため、私の方もこのあたりの思考を中断し、もっぱら池田やS.J.グールドが批判の対象にしている『社会生物学』とは何かということを主題に思考してきた。今年になって、雑誌『現代思想』2月号の特集・「ポストゲノムの進化論」で池田が“復活“したと思っていたら今回後継者を引き連れての登場となった。
ネオダーウィニズム論者の『進化の過程は自然淘汰と遺伝的浮動により起こった』という主張は大いに疑問があり、多くの生物学者から批判されている事はご承知のとおりと思う。両者の議論も結局この点に収束されるようだ。西條は『一つの理論で全て説明できるという主張で押し通そうとするのは間違っている。ネオダーウィニストはその理論の限界にも言説すべきである。そして新たな実験結果なり理論により元の理論が破綻したなら、また作り直して考えるのが誠実な研究者である』言う。全くそのとおりである。
本書はこれまで私の思っていたことをわかりやすい言葉で説明してくれる本である。とか科学思想や科学哲学というものは難しい言葉がやたらと出てきて、読者を翻弄し、結果として理解しにくくしてしまうことが多い。そういう意味で、日常の話し言葉を用いて“対談形式”で記述するという本書の編集方針は、一般の読者にとって極めて親切で丁寧な作りになっている。また本文の下部に脚注にとして、関連文献や用語解説が示されているのも大変に親切でよくできているなと思う。
以上有用な本に出会えてよかったなというのが結論である。西條の主著、“構造構成主義”に関するもの2編をこれから読んで、更に理解を深めたいと思う。なお池田の著作はほとんど読んでいると思うが、本書でより発展した形が示されつつあるので、もう1度読み返し、おさらいをしておくことが必要と考えている。
【目次】
はじめに ・・・ 鄱
構造主義科学論をつくる契機としての構造主義生物学 ・・・ 001 / 遺伝子における
全体と部分の混同がなぜ起きたのか? ・・・ 006 / 遺伝病の後天的治療法
・・・ 010 /異常はつくれても正常はつくれない ・・・ 012 / 社会生物学における
遺伝子共有率の矛盾 ・・・ 017 / 遺伝と環境再考 ・・・ 019 / 還元主義的方法の
限界 ・・・ 023 / 科学主義と教育 ・・・ 025 / 人間の本質とは何か? ・・・
029 / 後付理論 ・・・ 032 / 個別の説明理論の使い方 ・・・ 039 / 信念対立と
建設的態度 ・・・ 044 / アカデミズムという塀の中と外 ・・・ 050 / 創造的な
研究をするコツ ・・・ 055 / 出版するということの意味 ・・・ 057 / 細心の
注意と大胆さをあわせもつ ・・・ 060 / メタ理論としての構造主義科学論 ・・・ 064
/ 構造主義科学論の白眉 ・・・ 069 / 人間科学における「コトバ」の問題
・・・072 / 構造主義科学論と社会的構築主義との違い ・・・ 077 / 「文法」とは
何か ・・・ 080 / ラングのつくり方 ・・・ 085 / 「使わないことは忘れる」って
ことを忘れてる!? ・・・ 090 / ソシュールの恣意性を導入する経緯 ・・・ 096
/ 理論書の執筆 ・・・ 099 / 哲学とは何か? ・・・ 102 / 「考えぬく」ということ
・・・ 104 / リバータリアニズム ・・・ 106 / 「おしつけ」による個人の自由意志の
阻害 ・・・ 111 / 現象の尊重 ・・・ 116 / 原理的思考による「予測」 ・・・ 119
/ 過度なコントロールという問題 ・・・ 122 / 「科学的エビデンス」という問題
・・・ 126 / なぜ科学は役立つが、哲学は役立たないと思われるのか? ・・・ 132
/ 哲学と科学のコラボレート ・・・ 138 / オリジナル本を書くための本の読み方
・・・ 143 / 2タイプの本の読み方 ・・・ 146 / 本を書く際の環境と期間
・・・ 149 / 理論構築は自らの経験をデータとしている ・・・ 151 / 構造主義
生物学のベースとなった経験 ・・・ 155 / 構造構成主義の体系化の背景にある経験
・・・ 161 / 理論の普及に対する態度 ・・・ 169 / 理論継承とは頭の中で同じ
ものを構築すること ・・・ 172 / 構造主義科学論が科学哲学領域で広まらなかった理由
・・・175 / 構造主義科学論を理解するためのポイント ・・・ 178 / メタ理論構築の
際の留意点 ・・・ 181 / 研究テーマの移り変わり ・・・184 / 著書の価値 ・・・
188 / 模倣と継承発展 ・・・ 190 / 自分なりの参照点をつくる ・・・ 193 /
関わり方の探せる本を読む ・・・ 195 / 厳密に引用することの長所と短所 ・・・
198 / 思いついたときに書いておくことが大事 ・・・ 202 / 自分の本をくり返し
読むことの意味 ・・・ 206 / 文章のリズムの重要性 ・・・ 206 / 本を書く際の
基本技術 ・・・ 209 / 池田理論に通底するコト ・・・ 212 / 学界は学問の進歩には
あまり関心がない!? ・・・ 217 / 大切なことは何か ・・・ 220
対談余談 池田清彦・西條剛央・荘島宏二郎・京極真 ・・・ 225
あとがきに代えて 池田清彦論序説 西條剛央 ・・・ 235
初対面とその後 ・・・ 238 / 人となり ・・・ 240 / 天才理論家 ・・・ 244 /
縁か運命か ・・・ 248 / タフガイ ・・・ 254 / 生物学者である虫屋 ・・・ 258 /
カリスマ ・・・ 259
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