バナナと日本人

バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ (岩波新書)
【タイトル】  バナナと日本人 フィリピン農園と食卓のあいだ 
        戦後思想の名著50−39巻 はてな年間100冊読書クラブ
【著者】    鶴見良行
【出版社】   岩波書店岩波新書 黄199)
【発行年月日】 1982年8月20日
【版型 頁数】 新書版 230
【版 刷】   初版46刷
【ISBN】    4004201993
【価格】    777円
【コメント】
著者は龍谷大学教授などを歴任した人。雑誌・『思想の科学』の創刊にも参加した。
本書は国連のアジア太平洋経済社会委員会が1次産品調査の一環として、日本でのバナナ流通の研究を行った際の結果を基にして、一般向けにその現状と問題点を解説するため書かれた。つい先日近くの本屋で購入したが、出版以来24年間で、何と46刷という大ロングセラーとなっており、名著の名にふさわしい本である。
バナナという一般家庭でもありふれた果物の生産・流通に隠された、知られざる『多国籍企業による農園・流通の支配』の構図があばかれる。
本書の読了後に思うことは、『資本主義体制』の発展期において、資本による支配と労働者の貧困・悲劇が繰り返されているということである。日本でもかつて製糸工業における『女工哀史ISBN:4003313518、『ああ、野麦峠ISBN:4041433010、悲惨な労働環境で虐げられた労働者がいたのである。国策による生糸輸出振興に伴い、効率的生産という名のもとにどれだけ多くの人々が苦しめられたことか?
日本とはその歴史を異にするとはいえ、フィリピンもまた今、大地主制度からの脱却・資本主義体制の発展期にあるものと思われる。丁度日本の戦前期にあたるのだろうか? 日本と異なるのは、徹底した国策による外国資本の排除と自力・国内資本による発展を目指した日本に対し、最初から外国資本による経済発展を選んだフィリピンということになるのだろうか。
しかし資本主義のグローバル化が進んでいる今日、マクロな目で見れば世界経済を支えているのはこういった『多国籍企業』の存在であることも否定できない。結局資本主義というのは『世界レベルでの資本と労働』、『貧富の差』、『支配体制』の維持により成り立つものであるといえる。だから、こういった問題をどうやったら解決できるのか実際のところ私にはわからないというのが結論である。おそらく、まずはフィリピン国内での労働基準の確立、労働者の開放を進めることが必要なのだろうと思う。かつての日本のように、歴史は繰り返すである。
本書は1982年の出版であるが、その後の『バナナ』はどうなったのか知りたいと思っている。
【目次】
1 バナナはどこから? 知られざる日・米・比の構図 ・・・ 1
2 植民地ミンダナオで 土地を奪ったもの、奪われたもの ・・・ 27
3 ダバオ麻農園の姿 騒音・労働・技術 ・・・ 57
4 バナナ農園の出発 多国籍企業進出の影に ・・・ 85
5 多国籍企業の戦略は? フィリピン資本との結びつき方 ・・・ 109
6 契約農園の「見えざる鎖」 ふくらみ続ける借金 ・・・ 135
7 農園で働く人々 フェンスの内側を見る ・・・ 165
8 日本へ、そして食卓へ 流通ルートに何が起こったか ・・・ 193
9 つくる人びとを思いながら 平等なつながりのために ・・・ 215
あとがき ・・・ 227