岩波新書リニューアルに想う

既にあちこちで報道されているように、岩波新書赤版が1000点に達し、この4月より新赤版がスタートした。以前に比べると表紙の色がくすんだ薄めの朱色に変更になっているほか、本扉に描かれていた『ギリシアの風神』をモチーフにしたマークを表紙に配した。このマークはイラストレーターの山藤章二氏が書いたそうだ。それから現代風にタイトルが縦書きになっている。これらの装丁はなかなかにシックでしかも創刊当時の面影を残したいいデザインだと思う。新赤版刊行を記念して4月、5月には10点づつの出版が計画されている。いずれも新しいスタートにふさわしい、粒ぞろいの企画になっているようで、大いに期待している。
私が岩波新書に出会ったのは、1975年の大学入学以後のことである。後で知ったことであるが、多くの人たちが高校時代にこのシリーズに出会っているとのことで、大分遅かったのかなと思う。中学までは人並みには本も読んでいたと思うが、高校時代には野球に熱中していたためか、ほとんど読書らしい読書はできなかった。大学に入学して、同じクラスの仲間たちが岩波新書講談社ブルーバックス、現代新書、中公新書などを本棚に並べているのを見て驚いたのを覚えている。こんな書物は大学生以上の読むものだとズーと思っていた。四つ上の兄貴の本棚にも沢山並んでいたが、手に取ることも無く過ごしてきた自分が情けなかった。
読書に目覚めたのは、その後すぐに1年先輩の下宿に遊びに行ったときだった。6畳間の壁沿いに90cm幅のスチール本棚4本が置かれ、びっしりと文庫、新書が詰まっていたのである。当時はそれがとんでもなく凄いことに思われて、これはイカン、自分も本を読まなければと決意した。
決意したのはいいが何から始めたら良いか分らない。そんな時、同級生から進められたのが栗原康・『有限の生態学』・岩波新書・青版だった。三角フラスコの中で原生動物や藻類が繁殖・増殖する様を観察することによって、生態学に触れるという内容だったと記憶している。それからこのシリーズ(叢書)が大変に有名なシリーズであり、名著の宝庫であるということを知ったのである。要するに何にも知らなかったのだ。
当時は仲間との間で、読書競争のようないい意味での刺激があったこともあり、相当に沢山の新書類(岩波、中公、現代、ブルーバックス)を読んだはずだ。当時も普段は月4冊の刊行ペースだったが、在学中に出る岩波新書を全部読むぞと宣言した猛者もいた。
確か値段は全部同じで、280円だったと思う。岩波新書、文庫独特の価格表示法で、星1つが70円の意味になっており、新書は全部星4つだった。変な表示法だなと思っていたが、なんでこんな方法で表記していたのかいまだに意味がわからない。
我々の世代は、既に創刊当時の赤版から青版に変わっていた時代だったが、その青版も確か在学中に1000冊となり、黄版が発行され始めたと記憶する。それから早や30年になる。振り返ってみればあっという間だったようにも思えるし、いろいろなことがあったなとも思う。学生当時に読んだ赤版(既にほとんどが品切れだったので大部分は古本屋で仕入れた)、青版、黄版は今は実家の物置にしまってあるが、そのうちに取り出してまた読もうかと思っている。内容は殆ど忘れてしまったけれど、読み返すことで当時の生活や時代の記憶が蘇るかもしれない。ぜひ再度チャレンジしたいものである。
このニュースを聞いてから、早速近所の新刊本屋で面白そうなのを3冊ほど購入した。新しい装丁の本を見ながら、あれやこれや断片的ではあるが当時のことが思い出されてきて、一人でニヤニヤしている。