華族 近代日本貴族の虚像と実像


華族―近代日本貴族の虚像と実像 (中公新書)
【タイトル】  華族 近代日本貴族の虚像と実像 はてな年間100冊読書クラブ
【著者】    小田部雄次
【出版社】   中央公論新社中公新書1836)
【発行年月日】 2006年3月25日
【版型 頁数】 新書版 365頁
【版 刷】   ?
【ISBN】    4121018362
【価格】    987円
【コメント】
久々にドキドキするほどスリリングな本である。日本近現代史上の重要人物が、『華族』という“くくり“で日本の歴史と絡めて論じられており、まさに知られざる側面からの切り口で語られる。それだけに大変に斬新で刺激的な内容となっている。
本書は『華族』という一般には殆ど名前しか知られていない存在を、制度・家柄・人物・言動・日本史上での政治的役割などについてまとめたものである。著者によれば、「華族を語ることは、日本における近代の意味を語ることでもある。」 −まえがきより− という。確かにその通りだと思う。同じく著者によれば、華族というものは歴史や政治の上で重要な位置にありながら、殆ど研究されてこなかったという。その理由は戦前までは、「皇室の藩屏(はんぺい)」(注)である華族は、皇室と共に史学の研究対象として言わば “アンタッチャブル”な存在であったし、戦後は逆に歴史学界(研究者)の方が天皇に組する体制側の人々の研究をタブー視していたようだ。という訳で華族の研究が進んでこなかったらしい。そんな中で本書はユニークな存在であるといえる。なにしろ一般向けのこういった内容の歴史書は読んだことが無かったので、大変に興奮している。
明治維新、明治政府成立と共に誕生した華族制度であるが、最初は公家・諸侯で構成されていたが、どんどん肥大化していき最終的に1011家にまで増えてしまった。これでは特権階級を担保する財源が足りなくなるのは明々白々である。中には困窮のゆえに爵位を返上するものもいたようだ。いつの世も金の切れ目が縁の切れ目になるのだろうか?
華族制度は78年間という短い期間存在しただけであったが、明治以降の歴史に多大な影響を及ぼした制度であると思う。当面の課題が“昭和史”である私にとって大いに勉強になる内容であった。それにしても昭和に限定した歴史学習というものはなかなかできないものだ。どうしても明治から始めないと現代史が成り立たないようである。
なお本書は新書には珍しく、365頁もの厚さがあり、巻末には詳細な華族リスト(これまで正確な一覧表が無かったそうだ)、華族関係史料、参考文献がついており、より進んで学ぶための配慮も完備している。
著者は日本近現代史専攻、立教大学を経て現在静岡福祉大学教授。華族がらみの論文多数、その他に専門書を発表している。
昨日岩波新書についてコラムを書いたが、この中公新書岩波新書に劣らず優れた内容の本が多いと思う。学生時代よりこの叢書には大変お世話になってきた。数年前に経営が危うくなった頃はもうこういった良質の書物も読めなくなるのかと大変に心配したが、本書を読んでみて編集陣は健在のようである。今後もこういったいい本をどしどし出版してほしいと願っている。
(注)皇室の藩屏とは「皇室を守り育てる人々」という意味。
【目次】
まえがき
序章 イメージとしての華族 鹿鳴館を彩った人々 ・・・ 3 
第1章 華族の成立 ・・・ 13
 1 公家・諸侯から家族へ ・・・ 13 / 2 華族令 公・侯・伯・子・男の制度 ・・・ 20 /
 3 上層階級としての特権と義務 ・・・ 41
第2章 「選ばれた階級」の基盤構築 ・・・ 55
 1 華族の全貌 ・・・ 55 / 2 華族会館学習院 ・・・ 72 / 3 第十五国立銀行設立と
 華族農場 ・・・ 92 / 4 明治期の華族批判 ・・・ 103
第3章 肥大化する華族 明治から大正へ ・・・ 117
 1 日進・日露戦争と「軍人化」 ・・・ 117 / 2 無業者から映画女優まで 多様化する職業
 ・・・ 140 / 3 朝鮮貴族達の苦悩 ・・・ 159 / 4 貴族院 ・・・ 182
第4章 崩壊への道程 大正から昭和へ ・・・ 203  
 1 経済基盤の瓦解 ・・・ 203 / 2 西園寺公望と「革新華族」の台頭 ・・・ 226 / 
3 醜聞(スキャンダル) ・・・ 243 / 4 日中戦争・太平洋戦争下 ・・・ 259
終章 日本的「貴族」の終焉 敗戦・戦後 ・・・ 279
あとがき ・・・ 307
史料・参考文献 ・・・ 313
主要図版一覧 ・・・ 321
付録「華族一覧」 322