百貨店の誕生  


百貨店の誕生―都市文化の近代 (ちくま学芸文庫)
【タイトル】  百貨店の誕生  はてな年間100冊読書クラブ−No.044  
【著者】    初田亨
【出版社】   筑摩書房ちくま学芸文庫 ハー6−2)
【発行年月日】 1999年9月9日
【版型 頁数】 文庫版 317頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4480085173
【価格】    1155円
【コメント】
明治初期に成立した勧工場*1は道路を挟んだ両側にいくつもの店舗が立ち並ぶ商店街として各地に発達した。その形態的特徴は、それまでの店舗に一般的だった座売り方式*2に代わり陳列販売、土足立ち入りを実施した店舗であった。そういう意味で近代的形態であったといえる。百貨店はこの勧工場の盛衰の後に成立・発達したと言う。最初の百貨店は明治38年(1905年)に三井呉服店改め三越呉服店*3が百貨店形式で商いを始めたことである。デパートメント・ストア(Department Store)という英語の訳語として当時の新聞広告などに“百貨店”という言葉が登場した。以来約百年、庶民の消費文化のみならず、娯楽の場として百貨店は成長を続けてきたのである。
本書はそんな百貨店の誕生前から1990年ごろまでの百貨店の歴史である。著者は工学院大学教授、都市史、建築史専攻。1993年三省堂より刊行され1999年文庫化に際して1部改訂された。経済・文化の面からというより、都市工学から見た百貨店の歴史とでも言えようか?政治や戦争以外の歴史にも目を向けるという意味で本書に興味を持ったので購入した。
百貨店の誕生、そして大食堂の登場、遊覧場としての百貨店、演奏会や展示会、展覧会の開催などまさしく“百貨”の名にふさわしい充実振りで、右肩上がりの成長を遂げてきた。
しかし高度成長期を終え、低成長に入った昨今、特にバブル崩壊以後、流通機構の変革と共に非常に困難な時代に突入しているといえよう。実際現在では殆どの百貨店が経営危機にある。最近の話題では“そごうと西武百貨店”の経営統合などが記憶に新しい。本書ではバブル崩壊あたりで記述が終わっているが、今後の百貨店はどうなっていくのかこれからゆっくり考えて見たいと思っている。
【目次】
第一章 勧工場の成立 ・・・ 9
1 勧工場と百貨店 ・・・ 6 / 2 博覧会が作った勧工場 ・・・ 11 / 3 永楽町(辰の日)の勧工場 ・・・ 15 / 4 浅草勧工場と京橋勧工場 ・・・ 24 / 5 勧工場の盛衰 ・・・ 31
第二章 繁華街に出た勧工場 ・・・ 41
1 明治後期の勧工場 ・・・ 41 / 2 賑わいにまぎれる楽しみ ・・・ 48 / 3 帝国博覧館 ・・・ 56 / 4 特異な概観を持つ勧工場 ・・・ 62 / 5 不特定の客と店舗意匠 ・・・ 70 
第三章 呉服店から百貨店へ ・・・ 75
1 百貨店の誕生 ・・・ 75 / 2 陳列販売方式の導入 ・・・ 83 / 3 流行を作る ・・・ 90 / 4 PR誌の発行 96
第四章 新しい顧客の開拓 ・・・ 103
1 「山の手」に住む人を顧客に ・・・ 103 / 2 貴顕の接客と「学俗協同」 ・・・ 108 / 3 ブランドになった百貨店 ・・・ 118 / 4 ルネッサンス様式の建築 ・・・ 124 / 5 「今日は帝劇、明日は三越」 ・・・ 138
第五章 遊覧場になった百貨店 ・・・ 145
1 家族で出かける百貨店 ・・・ 145 / 2 繁栄する食堂とお子様ランチ ・・・ 148 / 3 遊園地のような屋上庭園 ・・・ 156 / 4 年中博覧会の催し物 ・・・ 163 / 5 行楽施設を作る ・・・ 167
第六章 家庭生活の演出 ・・・ 173
1 三越の児童博覧会 ・・・ 173 / 2 美術展の開催 ・・・ 182 / 3 西洋音楽の演奏会 ・・・ 190 / 4 室内装飾に進出 ・・・ 194 / 5 和洋折衷の意匠 ・・・ 198 / 6 手の届く文化生活 ・・・ 203
第七章 新中間層と都市文化 ・・・ 211 
1 ターミナルデパートの出現 ・・・ 211 / 2 大衆を顧客に ・・・ 239 / 3 小売商店との軋轢 ・・・ 225 / 4 土足入場の断行 ・・・ 235 / 5 アール・デコ様式の建築 ・・・ 240
第八章 勧工場と百貨店の時代 ・・・ 255
1 都市の遊覧コース ・・・ 255 / 2 流行・文化の発信基地 ・・・ 261 / 3 都市施設としての商店 ・・・ 268
注 ・・・ 275
あとがき ・・・ 301
文庫版のためのあとがき ・・・ 304
解説 「百貨店の誕生」とデパート研究の現在(吉見俊哉) ・・・ 307

*1:かんこうばと読む。

*2:時代劇でおなじみの、売り手が畳に座り、呉服等を販売する方式。

*3:三越とは三井越後屋の略。