あるエリート官僚の昭和秘史 武部六蔵日記を読む


あるエリート官僚の昭和秘史―『武部六蔵日記』を読む (芙蓉選書ピクシス)
【タイトル】  あるエリート官僚の昭和秘史 武部六蔵日記を読む(市立図書館より)
        はてな年間100冊読書クラブ−No.067
【著者】    古川隆久   
【出版社】   芙蓉書房出版
【発行年月日】 2006年4月1日
【版型 頁数】 四六版 222頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4829503742
【価格】    1890円
【コメント】
昭和史、戦争の解説書を何冊読んだろうか?最初の頃はこれで何冊と数えていたが、いつのまにか忘れてしまった。中には資料として面白いものもあった。中でも日記は意外と貴重な資料になり得る。本書は満洲国に関わる重職を歴任したエリート官僚の戦中日記である。立場が立場だけに個人的な日記であっても、その内容に相当な資料性があるようだ。この日記の作者は、これを公表することを前提としていなかったので、かなり際どい内容も含まれている。そこが結局歴史史料として重要なことなのだろうと思う。満洲国内情の赤裸々な実像が生き生きと語られる第一級の史料である
日記というものは不思議なもので、後世に読んでもらうため、公開する事を前提にして書かれたものが多数存在する。だからかなりの誇張や創作、推論、我田引水、自画自賛*1などが含まれることが多いので、歴史史料として読む場合は注意を要するそうだ。
著者は日本大学文理学部教授、日本近現代史専攻。著書多数、本書の基になった『武部六蔵日記』の発掘・編集・出版に関わった人である。本書はその日記の“ハイライト”部を解説したもので、ぞくぞくするほど真実味のある昭和秘史を伝えている。
昭和史の中にあって、満州国の存在は特に重要だ。明治後期の外交史、戦争史に引き続いての満州国建設、拡大は『大東亜共栄圏』建設・世界制覇へと向かう日本の植民地政策の中心にある存在だった。ただ先日のNHKスペシャルにもあったが、その影で悲惨な満洲開拓を軍部に強いられた一般人も多かった。そんな満州国の内実を伝える本書はまさに昭和秘史にふさわしいと思われる。また一般人民の目から見た昭和史という視点での考察も重要と思う。本書にある参考文献などを頼りに更に日本の植民地政策についても調べて見たいと思っている。
【目次】
はじめに ・・・ 1
第一章 日記が始まるまで ・・・ 7
武部の生い立ち ・・・ 8 / 武部の官界入り ・・・ 12 / 武部の渡満 ・・・ 19
第二章 皇帝溥儀 ・・・ 21
溥儀の訪日 ・・・ 32 / 溥儀の実像 ・・・ 37 
第三章 現地の人々 ・・・ 47
張燕卿の招宴 ・・・ 42 / 親鸞と不信 ・・・ 52 / 阿片と抗日運動 ・・・ 60
第四章 関東軍 ・・・ 67
治外法権撤廃・満鉄付属地行政権移譲問題 ・・・ 68 / 高まる関東軍への不満 ・・・ 78 / 協和会問題 ・・・ 81
第五章 満洲の日本人 ・・・ 97
松岡洋右鮎川義介 ・・・ 98 / 日本人住民たち ・・・ 105 / さまざまな日本人たち ・・・ 112
第六章 満洲から見た日本と中国 ・・・ 118 
二・二六事件軍閥抗争 ・・・ 120 / 日本の政局と外交 ・・・ 125 / 日中戦争 ・・・ 134
第七章 日本に戻って ・・・ 135
帰国 ・・・ 140 / 国策会社の設立 ・・・ 143 / 陸軍との駆引き ・・・ 150 
第八章 企画院次長として ・・・ 163
国策立案の中枢へ ・・・ 164 / 多忙な日々 ・・・ 167 / 貿易省問題の挫折 ・・・ 174 / 陸軍の政策立案に関わる ・・・ 182 
第九章 再び渡満、拘留、帰国 ・・・ 191
満州国総務長官 ・・・ 192 / 敗戦と拘留 ・・・ 201
おわりに ・・・ 211
あとがき ・・・ 215
人名索引 ・・・ 222

*1:最近では中曽根某の防備録などがある。これなど典型的な我田引水・自画自賛型だ。