人間は遺伝か環境か?


遺伝的プログラム論 人間は遺伝か環境か?――遺伝的プログラム論 (文春新書)
【タイトル】  人間は遺伝か環境か?遺伝的プログラム論
【著者】    日高敏隆
【出版社】   文春新書
【発行年月日】 2006年1月10日
【版型 頁数】 新書版 176頁
【版 刷】   初版 1刷
【ISBN】    4166604856
【価格】    745円

【目次】
はじめに

第一章 オタマジャクシはカエルの子
      キャベツの葉につく青虫はなぜモンシロチョウになるように決まって
      いるのだろう。遺伝がすべてを決定するのだろうか。

第二章  大人になるのは大変だ
      これまでは学習は遺伝と対立するものと考えられてきたが、どうやら
      そうではないらしい。

第三章  人間 この集団で生き育つもの   
      では、人間の発育を決定するのは、遺伝なのか、環境なのか?
      最近問題化している子どもたちのしつけやコミュニケーション
      能力の欠如の原因を考える。

第四章  人間の子どもはどう育つ?
      一人一人の子どもはどのように育っていくのか?
      動物行動学の研究成果を踏まえつつ、発育のプログラムを探る。

第五章  人間と言語の不思議な関係
      言語の多様性は、人間が共通のプログラムを持っていることによって
      逆説的に生じたものかもしれない。

第六章  誰もが抱く疑問
      個人のプログラムに優劣はあるのか?プログラムは時代に応じて
      変化するのか?誰もが感じている疑問に答える。

対談   なぜ今「遺伝的プログラム」なのか?
      日高敏隆×佐倉統

あとがき

【コメント】
著者は京都大学名誉教授で動物行動学の専門家、この方面での著作、翻訳も多く手がけている。ロ−レンツの紹介者としても有名。現在は国立総合地球環境学研究所長。
要するに、著者の言いたい事は、従来から言われている『遺伝か環境(学習)か』、『氏か育ちか』という二元論ではなく、学習は遺伝的プログラムの一環であり、遺伝的プログラムに従って学習が行われるということになる。
著者の言う『遺伝的プログラム』とは何かがよくわからない。本文中での、『遺伝的プログラムとは遺伝子のプログラムのことですか?』という問いに、『ノー』といっておきながら、その説明で


…… 時間的、場所的に配列された総体が遺伝的プログラムなのだ。動物の体に、いつ、どのようなことが起こっていくかは、この遺伝的プログラムによって決められている。つまり、遺伝子は集団として遺伝的プログラムを作っているのである。
P.136……


と述べている。これでは何のことかわからない。遺伝子の総体をゲノムと言う。(昆虫も鳥もヒトもこのゲノムを二組持っている)上記の引用を簡略化すると、『遺伝的プログラムとは遺伝子集団の総体であり、ゲノムである。ゲノムに従って動物は行動するのである』ということになる。これは社会生物学の主張することそのものを単に言い回しを変えただけのことではないか。
このような議論では、ではどのようにしてその遺伝的プログラムが進行・発現しているのですか、分子レベルで説明せよという疑問が当然出てくるのだが…。そんな時、動物行動学者は、それについては殆ど何もわかっていないし、そんなことは遺伝学者や生化学者の仕事だよと言うのだろうなきっと。
他にも遺伝子の説明のところでの“誤解”と思われる、非常に気になる個所があった。どうもマユツバであるなという印象が強い本であった。