大学におけるカリキュラム編成と教科書の問題点


『コンパクトな教科書と馬鹿でかい教科書』
今回は日本生態学会編・『生態学入門』・東京科学同人とベゴン・『生態学』・京都大学出版会を読み比べてみて、思ったことについて書きたい。
日本における大学のカリキュラム編成では、講義については半期で2単位(50分×2×15回)が基本になっている。生態学などの基礎科目はおそらく2単位を2科目(例えば生態学Ⅰ及びⅡ、各2単位など)あるいは1科目4単位の履修になっているのではないかと思う。このような細切れ編成が多いと、必然的に時間内で終わらせるためにはコンパクトな教科書を採用することになる。但しコンパクトな中にも、広範な生態学全分野をカバーするために、理解しておくべき事項は多数あるので、一つ一つの事項説明は簡潔且つ最低限の記述にならざるを得ない。その結果誕生したのが生態学入門という本である。全体像を見つめつつ、コンパクトさを追求するとこのような本になる典型である。この本の記述では専門用語の説明に、○○を、◎◎という、というフレーズがやたらと多く出てくる。つまり定義そのものを羅列する形式で話が進む。その結果、専門用語集を張り合わせたような内容になってしまっている。これでは読手(学生やこの分野に興味を持っている一般読書人)はつまらなく感じるだろう。研究にも人が関与し、その流れ、歴史があるはずである。その辺をすっかり省略してしまうと面白みの無い内容となってしまう。初学者にとって、何が重要かといういと、独学でどんどん勉強できるような教材を提供されることがもっとも大事と思う。意欲を持って望めるからである。おそらく講義を担当する教官はこの辺を補うため、いくつかの副読本、印刷資料、最新の論文紹介などを併用し、また研究の流れ、歴史なども合わせて講義しているものと思われる。
ベゴン・生態学ではそもそも簡潔さをあまり考慮せず、大事なところはしっかりと丁寧に説明する、なぜこのような考え方が確立されたのか、その過程や研究者が何を考えたのかについても記述されている。要するに物語的な記述が含まれるので読み物としても面白いのである。従って初学者にも研究の歴史がよく分るという結果になる。また1つの流れで生態学周辺の領域も記述されるので、関連分野との関係がわかりやすい。但しその結果として、本のサイズは電話帳の如く馬鹿でかくなってしまうが・・・。欧米で定評のある教科書は皆こういうスタイルを貫いているため当然ながら日本でも評判が良い。というより日本で高い評価を受けている教科書は皆、欧米の翻訳本であるといっても良いかもしれない。大変分りやすくて面白いからである。
欧米のカリキュラム編成がどのようなものなのか詳しいことは知らないが、おそらく生態学Ⅰ、半期で4コマ、8単位、あるいは通期で16単位という風な編成になっているものと思われる。生態学関連分野16単位を履修するのに、片や1科目16単位と一方で8科目で各2単位、計16単位ではどちらが効率的かというと前者の方だと思われる。教科書は馬鹿でかいのが1冊((当然ながら副読本、コピー資料などは別にして)対コンパクトなものが8冊、重複部分の有る無し、全体像の理解しやすさなどで前者の方がアドバンテージがあるように思える。また教科書代あるいは情報コスト(金額/有効情報量)はトータルすると前者の方が安くなるだろう。
これはあくまで読み手側からの意見である。教える側の問題点や事情も多々あろうかと思われる。この辺は頁を改めて再度考えてみたい。
以上私が学生だった頃(約30年前?)から感じていたことであるが、現在もこの辺の事情はあまり変わっていないのではないかと思う。ぜひ再考していただきたいものである。