パワフル粘菌

zyugemu2006-04-06


【タイトル】  パワフル粘菌
【著者】    前田靖男
【出版社】   東北大学出版会
【発行年月日】 2006年2月28日
【版型 頁数】 A5版 158頁
【版 刷】   初版1冊
【ISBN】    ISBN:4861630215
【価格】    1890円
【コメント】
 多くの読者は『粘菌って何だ』と思われるであろう。粘菌とは誠に不思議な生き物である。それは単細胞微生物、多細胞原生動物、植物、動物の性質を併せ持った一群の生き物達である。普段の生活ではアメーバのような単細胞微生物として振舞い、環境の変化による飢餓状態(要するに餌が少なくなってくると)では多細胞化しキノコのような子実体を形成する。この形では生活環が大幅に変わり植物のように振舞う。また両者の中間型として多細胞原生動物のようなライフスタイルとなる場合もある。当然ながら無性生殖と有性生殖を上手に使い分け、環境条件に適した多彩な生き方をするのである、全く得体の知れない奴らである。
  先に紹介した『線虫』同様に、この粘菌もまた生物の発生・分化を生化学的、遺伝学的に研究する材料として適していると著者は言う。上述のような多彩な生活環において、およそ生物の示す発生形態、分化過程の基本的な部分を全て持っているからである。また培養が容易で、材料入手が簡単であることも重要である。言わば、粘菌は生物の基本型を持ったモデル材料として最適であると。
  というわけで、粘菌の本をここに紹介する。著者は東北大学大学院生命科学研究科教授、長年生物の分化・発生機構の研究をしていると言う。おもに発生生物学会が活動の場であるらしい。
  本書は粘菌の入門書とは謳っているが、どうも予備知識の無い読者には難し過ぎるようだ。まず用語はもっと丁寧にその定義と概念を説明する必要がある。遺伝子の略号なども説明抜きでいきなり本文に登場するので知らない人はわかりにくい。
  とはいうものの、この分野は書物が少なく出版事体は歓迎されるべき内容であると思う。生物の本質を理解するにはこれから発生・分化の研究が不可欠であると思う。その先駆的な研究例として大いに期待できる仕事であると思う。
【目次】
1.はじめに … 3
Ⅱ.細胞性粘菌の多彩な生存戦略 … 7
 1. 無性生殖:子実体の形成 … 8
 2. 有性生殖:マクロシスとの形成 … 10
 3. ミクロシスト形成 … 14
 4. 生存戦略ランキング … 14
 5. 利他行動と対立 … 15
Ⅲ.粘菌が研究対象として重宝がられる理由 … 21
 1. 標的遺伝子を破壊する方法:相同組み替え … 21
 2. 機能遺伝子を分離・同定する方法:REMI法 … 23
 3. cDNAおよびゲノムDNA情報の利用 … 26
Ⅳ.単細胞から多細胞へ … 31
 1. 細胞誘引物質と細胞運動のしくみ … 31
 2. 細胞と才能の接着機構 … 42
Ⅴ.細胞分化のはじまり … 51
 1. 分化開始のシグナル:飢餓 … 51
 2. 細胞周期上での増殖/分化のチェックポイント:GDT点 … 56
 3. 分化のために必要なシグナル … 66
Ⅵ.分化パターンの形成機構 … 75
 1. 細胞周期に依存した分化・パターン形成 … 75
 2. モルフォゲン探索 … 82
 3. 形態形成運動 … 109
 4. 細胞分化のしなやかさ:分化転換 … 118
Ⅶ.新たな生命活動の再開:発芽 … 127
Ⅷ.ミトコンドリアの意外な側面:発生制御面での多面的機能 … 133
 1. 分化開始とミトコンドリア … 134
 2. パターン形成におけるミトコンドリアの関与 … 137
 3. 細胞の極性運動とミトコンドリアのかかわり … 145
Ⅸ.むすび … 151
Ⅹ.参考書・映画・ビデオ … 157