魚の形を考える


魚の形を考える
【タイトル】  魚の形を考える
【著者】    松浦啓一 編著
【出版社】   東海大学出版会
【発行年月日】 2005年8月20日
【版型 頁数】 A5版変型 286頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4486016742
【価格】    2940円
【コメント】
  自然を学ぶシリーズの1冊、書名にひかれて購入した。編著者は国立科学博物館動物研究室動物第2研究室長。編著者を含め、水産庁農水省関係の研究者が多く寄稿している。
  本書の特徴は、リンネ以来の生物学の伝統的手法、比較解剖学、比較形態学の立場から魚の形を考えることにより、魚という生物群の特徴、多様性、進化を解説しようと試みていることである。
近年魚類研究においても分子系統学的手法が多用され、形態学的研究そのものが少なくなってしまったようだ。魚類に限らず、その手法自体がまだ未成熟であり、この手法から得られた結果のみで進化を議論するのは時期尚早と思われる。例えば逆戻りの突然変異や繰り返しの変異、前適応の説明などに関する理論はまだ全く確立されていない。そもそも変異の確率が一定であるとする考え方はほとんど根拠がないと思われる。そんな現状では十分な結論が得られないと思うのだが、何故か分子遺伝学の“流行“によって多くの研究がなされている。
  そんな現状の中、伝統的な考え方に基づいて、頑固な姿勢で研究をすすめる姿は好感が持てる。私も分子系統学にのみ基づいた進化の議論に胡散臭さを感じているので、こういう人たちを応援したくなる。
  最初啓蒙的な内容かと思い買ったのであるが、相当に専門的で読むのが厄介だった。予備知識のない読者にはちょっと薦めかねる所がある。ただしこの版元は生物学、特に水産生物に関する出版物に良い本が多い、というか私の興味にあった本を出してくれるので常時注目の出版社である。今後も面白い本をどしどし出しくれることを望みたい。
【目次】
はじめに ・・・ 鄴
第1章 形に見る魚の多様性   松浦啓一 ・・・ 1
 魚の形/水中生活の制約/水中生活と鰭/ゆっくりモ−ドの魚たち/大きな魚と小さな魚
第2章 魚類化石の形を考える   藪本美孝 ・・・ 23
 はじめに/化石から形を取り出す/日本の魚類化石/魚の形を考える/
 Box.1 ディプロミュトゥスの系統学的位置 ・・・ 30 
 Box.2 シーラカンスの化石 ・・・ 60
第3章 多様な形がどのようにできあがるか − コイ科魚類の咽頭歯   中島恒夫
 ・・・ 69
 はじめに/コイ科魚類の咽頭歯系がどのようにできあがるか/ドジョウ科やサッカー科
 魚類の咽頭歯系との比較/ここの歯がどのようにできあがるか/咽頭歯は歴史的に
 どのようにつくられるか/コイ科魚類の咽頭歯はどのようにつくられるか
第4章 両眼が片側にある魚たち − カレイ目魚類:その多様性と進化   
 星野幸一 ・・・ 115
 はじめに/表と裏−左右不対称性/カレイ目の起源/カレイ目の多様性―進化の歴史を
 解読する/むすび 
 Box.1 カレイ目を構成する科の紹介
第5章 形から考えるカサゴ目の単系統性   今村央 ・・・ 161
 はじめに/カサゴ目の多様性/カサゴ目の系統類縁関係/カサゴ目の共有派生形質の
 見直し/カサゴ目の近縁群探し/カサゴもくは他人の空似の寄せ集め/所属不明の魚たち/
 カサゴ目研究のその後/眼下骨棚の機能/カサゴ目の分類体系
 Box.1 単系統群と共有派生形質 ・・・ 166
 Box.2 分類階級と分類群 ・・・ 168
第6章 顎が出る話   白井滋 ・・・ 201
 「顎が出る」ということ/「顎出し」のお作法/魚「顎」!/動的な顎の進化的な意義/
 おわりに
第7章 子供から大人へ大変死する魚たち   塚本洋一 ・・・ 229
 魚類の初期生活史/千変万化の魚類の初期生活史/初期形態生活史の意義ついて考える
第8章 形態による分岐図は何を表す?−タンガニイカ湖産シグリッドを例に   
 高橋鉄美 ・・・ 255
 はじめに/タンガニイカ湖産シグリッド/分類学的研究/族分類の改訂/分子系統との
 比較/どのように進化したのだろうか?/より合理的な系統推定をめざして
索引