生命科学の近現代史


生命科学の近現代史
【タイトル】  生命科学近現代史
【著者】    廣野喜幸 ほか編
【出版社】   剄草書房
【発行年月日】 2002年10月20日
【版型 頁数】 四六版 375頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4326153660
【価格】    3570円
【コメント】
  編者の一人、廣野喜幸は東京大学総合文化研究科助教授(当時)、共編者、執筆者らもほとんどが東大教養学部、総合文化研究科の関係者であり、科学論、科学史専攻である。
  本書は生命関連科学(広い意味での医学・生物学)の歴史を語る中で、これら諸科学の成立、その時代での社会的背景との関係、現在(現代)の問題点などを浮き彫りにしようという意図で編まれた論文集である。
  序文によると編者が本書で目指すものは、外的アプローチによる生命科学史の研究であるという。外的アプローチとは、生物学史なら生物学史内部での議論による研究を内的アプローチと呼ぶのに対する語であり、生物学と外部環境、即ち社会的要因・時代的背景や他科学との関連などを考慮した考察による研究を意味する。本書はこのような意図の元にこの手の本としては、多彩な内容の編集になっている。
  以前にも書いたが、この日記を書き始めたきっかけは広く生物学全般を知り、生物の歴史即ち進化を理解したいと思ったことである。二十年ほど前より古生物学、分類学、系統学、動植物学などの書物を読んできたが、やはり思想としての生物学、科学哲学の変遷を押さえておくことは重要と思う。ということでこの分野で最近の話題をまとめたものをと思い本書を購入したのが3年程前、やっと読了した。一般の生物学史(一〜五章)に続き、人類学、優生学、環境・生態学、性科学、エピステモロジーという話題まで書かれている。
  最も関心が高かったのが、人類学及び優生学に関する章である。かつて人種差別の“科学的根拠”として悪用されたこれら科学の変遷を押さえておくことが今後の生物学、進化学理解には必須であると考えたからである。他には性科学の章も面白かった。なお各章には詳細な参考文献がついているが、巻末にも読書案内と称して関連する一般向きの書籍が紹介されており、これから更に進んで勉強したい向きには大変有用であると思う。
  広義の生物科学についての歴史なり思想史なりを一般向けに紹介した本がなかなか見つからなかったが、本書の発刊でかなり状況はよくなったと思う。
【目次】
はじめに 生命科学・医学の歴史を知ることの意味   編者 
第一章 近代生物学の思想的・社会的成立条件   林真里・廣野喜幸 ・・・ 1
 第一節 生命科学・技術の成立過程 − 四つの領域 ・・・ 2 / 第二節 生物学の成立
  ・・・ 4 / 第三節 生物学への物理・化学的手法の導入 ・・・ 14 / 第四節 生物学の
 社会的認知と制度化 ・・・ 19 / 生物学とテクノロジー ・・・ 27
第二章 近代生物学・医学と科学革命   廣野喜幸 ・・・ 35
 第一節 科学革命論 ・・・ 36 / 第二節 近代生物学・近代医学の誕生と史観 ・・・
 41 /  第三節 近代医学史の概略 ・・・ 47
第三章 近代医学・生命思想史の一断面 − 機械論・生気論・有機体論   廣野喜幸・林真里 ・・・ 53
 第一節 はじめに ・・・ 54 / 第二節 デカルト機械論の衝撃 ・・・ 56 / 第三節
 機械論 対 生気論 ・・・ 62 / 第四節 第三の道 − 先駆としてのカント ・・・ 73
第四章 生命科学と社会科学の交差 − 十九世紀の一断面   市野川容孝 ・・・ 91
 第一節 生命科学と社会科学 ・・・ 92 / 第二節 「デカルト的二元論」という偏見 −
 脳死 問題を例として ・・・ 93 / 第三節 「個体=不可分体」という概念 ・・・ 98 /
 第四節 社会科学 ・・・ 102 / 第五節 病める生命=社会 ・・・ 113
第五章 中世ルネッサンスの医学と自然誌   小松真理子 ・・・ 121
 第一節 はじめに − 見取り図 ・・・ 122 / 第二節 「十二世紀ルネサンス」と中世の
 医学教育のテキスト ・・・ 127 / 第三節 中世の医学の構造 ・・・ 132 / 第四節
 免許制度 の進展と下級医療職の世界 ・・・ 141 / 第五節 ルネサンス期のフマニスム
 と一六世紀の医 学のうねり − 再編への模索 ・・・ 143 / 第六節 いきものの
 自然学の境位 ・・・ 146 / 第七節 後期ルネサンス期における発生・生殖の問題 /
 第八節 十七世紀の「科学革命」と医学/生物学 ・・・ 158
第六章 人種分類の系譜学 − 人類学と「人種」の概念   板野徹 ・・・ 167
 第一節 人類学の研究領域 ・・・ 168 / 第二節 人類学の歴史の「難しさ」 ・・・ 
 171 /  第三節 「人種」分類の起源 ・・・ 175 / 第四節 啓蒙時代の「人種」分類
 ・・・ 178 / 第五節 進化論と「人種」 ・・・ 185 / 第六節 「人種」の「科学化」と
 その隘路 ・・・ 189
第七章 優生学の歴史   松原洋子 ・・・ 190
 第一節 優生学史の特異性 ・・・ 200 / 第二節 優生学史へのまなざしの変化 ・・・
 201 / 第三節 優生学の成立 ・・・ 208 / 第四節 優生学の思想的背景 ・・・ 213 /  第五節 促進的優生学と抑制的優生学 ・・・ 216 / 第六節 本流優生学と修正優生学
 ・・・ 219 / 第七節 優生学概念の変遷 ・・・ 221
第八章 生態学と環境思想の歴史   篠田真理子 ・・・ 227
 第一節 はじめに − 環境意識の歴史 ・・・ 228 / 第二節 環境主義 ・・・ 
 232 / 第三節 生態学とその前史 ・・・ 242 / 第四節 景観と人間社会の歴史
 ・・・ 251 / 第五節 おわりに − 自然誌の見直し ・・・ 258
第九章 生物学と性科学   斎藤光 ・・・ 267
 第一節 性科学とは ・・・ 268 / 第二節 性をめぐる科学の3つの軸 − 啓蒙期までの
 以後 ・・・ 275 / 第四節 性選択と性倒錯 − 性科学の成立 ・・・ 282 / 第五節
 性科学の展開 ・・・ 291 / 第六節 おわりに ・・・ 304
第十章 生物学とフェミニズム科学論   高梁さきの ・・・ 307
 第一節 フェミニズムから見たフェミニズム科学論 ・・・ 309 / 第二節 生物学史から見た フェミニズム科学論 ・・・ 316 
第十一章 概念史から見た生命科学   金森修 ・・・ 339
 第一節 少数派としてのエピステモロジー ・・・ 340 / 第二節 内分泌概念史の素描的俯瞰 ・・・ 346 / 第三節 結語 ・・・ 361
おわりに − 読書案内とともに   編者 ・・・ 365
人名索引・事項索引

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