逝きし世の面影  はてな年間100冊読書クラブ−006


逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)
【タイトル】  逝きし世の面影
【著者】    渡辺京二
【出版社】   平凡社平凡社ライブラリー・わ21)
【発行年月日】 2005年9月9日
【版型 頁数】 ライブラリー版 604頁
【版 刷】   新版 5刷
【ISBN】    4582765521
【価格】    1995円
【コメント】
1998年、葦書房より刊行され、和辻哲郎文化賞を受賞した本の復刻版、同ライブラリーでも再版とのこと。この本も再版されるや各方面の書評で取り上げられ絶賛されたのが目にとまった。どうして新聞・雑誌での書評というのは一つの本に集中することが多いのか?実際毎週の主要な新聞・雑誌書評を見ていくと、ダブりというより3紙(誌)以上で取り上げられるケースも珍しくない。これだけ大量の出版物があるというのにである。その理由はその本が名著ゆえ、どの書評家にとっても取り上げるのに値するからであろう。(本当のところは書評すべき本を探し出すのが面倒なだけだったりして・・・。それとも出版側からの強い要望があるのだろうか?)
というわけで、日本近代史、特に幕末、明治初期の様子を当時日本に滞在していた外国人の目から見た日本という形で語る本である。日本人による記述はそれこそ山ほどあるだろうが、当時の日本を記述した外人がこんなに沢山いるのかと思うほど多彩である。見方・考え方の大きく異なる外国人ならではの観察、論考が面白い。
当然ながら、これら当時の異人さん達の著作をつなぎ合わせただけでは本にならない。当時の様子についての考証・検証が必要でありまた著者独自の歴史観があってこそである。この著者は前述の資料類をもとに、本書を全体で14の章に再配列しなおしている。そこには結局『人』と『生活』が中心に据えられている。『政治』や『戦争』という国レベルの話ではなく、日々生活する人々を外国人の目から見た形で描いているのである。こういった観点から見た歴史記述というのは他にちょっと見あたらないのではないかと思う。本書のユニークさ、独創性はそこにあるといえよう。
当時の様子、風景を描いた挿絵がある。人物を描いたスケッチがある。そして各々の著者達の古ぼけた写真がある。風格のある文体で綴る文章と合わせて、これらの図絵が絶妙の雰囲気を醸し出す。我々の世代は戦争を知らない世代であるからもちろん戦前の雰囲気さえ知らない。近代化に向けて歩み出した明治期の日本がどんなだったか、当時の人がどんな暮らしをしていたか、これらの図絵が無言で物語る、そんな本である。ビジュアル・ワイド 明治時代館 (ビジュアル・ワイド 明治時代館(全1巻))
数年前より明治期の資料モノ、特に絵の入ったものをいくつか求めている。中でも一番のお気に入りは、『明治時代館』・小学館である。当時の風景、生活用品、広告、絵画など視覚に訴える資料はイメージとして時代を知るには効果的だと思っている。当面の課題は昭和史であるが、“昭和という時代の土台”としての明治・大正期もまた重要だし、とても面白いと思った次第である。
なお著者は日本近代史が専門で在野の研究者、現在は河合熟福岡校の講師だという。その著作は高く評価されているらしく、評論集なども出版されている。
【目次】

第一章 ある文明の幻影 ・・・ 9 / 第二章 陽気な人々 ・・・ 73 / 第三章 簡素と
ゆたかさ ・・・ 99 / 第四章 親和と礼節 ・・・ 145 / 第五章 雑多と充溢 ・・・ 205 /
第六章 労働と身体 ・・・ 235 / 第七章 自由と身分 ・・・ 261 / 第八章 裸体と性 ・・・
295 / 第九章 女の位相 ・・・ 341 / 第十章 子供の楽園 ・・・ 387 / 第十一章 
風景とコスモス ・・・ 427 / 第十二章 生類とコスモス ・・・ 481 / 第十三章 信仰と
祭 ・・・ 525 / 第十四章 心の垣根 ・・・ 557
あとがき ・・・ 581
平凡社ライブラリー版あとがき ・・・ 585
解説 共感は理解の最良の方法である 平川祐弘 ・・・ 591
参考文献 ・・・ 601
人名索引 ・・・ 604