戦中・戦後気侭画帳  


戦中・戦後気侭画帳 (ちくま学芸文庫)
【タイトル】  戦中・戦後気侭画帳   はてな年間100冊読書クラブNo.018  
【著者】    武井武雄
【出版社】   筑摩書房ちくま学芸文庫 タ24-1)
【発行年月日】 2005年7月10日
【版型 頁数】 文庫版 414頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4480089241
【価格】    1575円
【コメント】
先日届いたちくま文庫の目録を見て、その解説文から興味が湧いたので購入した。著者は東京美術学校*1美術学部西洋画学科出身の童画家、版画家で絵本などの文章も書くらしい。この著者の職業を聞いて童画という言葉を初めて知った。童(わらべ)の絵という意味らしい。子供を描いた絵画あるいは子供が観る絵画である。もちろん漫画ではない。
本書は著者が昭和十二年から二四年の間に描いた『らくがき帳』を元に編集し、1973年に筑摩書房から刊行した『戦前気侭画帳』、『戦後気侭画帳』の2冊を合本・文庫化し、絵の中に毛筆で書き込まれた文章を欄外に活字化したものである。文庫本を横にして、横長の絵を配し、絵中の手書き文章を両脇に書き込んであるため、大変“観にくく、読みにくい”配置である。これに合わせてまえがき、目次、年表、あとがきにかえてもこの配置になっているので、ホントに奇妙でヘンな作りの本である。こんな本は初めてだ。よく考えれば、“文庫サイズの画集”というのも今回が初めての経験となったが、ちょっとばかり強引な文庫化は無理があったのかなとも思う。
この絵が書かれた時期は当然ながら『戦争』の景色が濃い。日本国内の風景にも『軍服姿の兵隊さん』、『勤労奉仕する子供達』、『空襲の現場』、『戦闘機、爆撃機』などが多数登場する。また食への思いからか『憧れの食べ物』、『野菜たち』、『御膳』など・・・・・・。毛筆の軟らかいタッチで描かれた風景、人物、食べ物などが皆無言でいろいろなことを連想させる。
また文章もいい。毛筆で絵に重ねられた配置、筆遣い、言葉などどれも味わいがあり、またその裏には戦争への様々な思いが隠されているのがわかる。いくつか引用してみよう。

 

久しぶりで昼空襲一時半 今日ハ空襲警報が出る 四編隊まで来る 後は中部へ 体当たりを見るこの分一機たしかに撃墜なり 我方友軍が落つる様見る事四、五 無念(一・九)
                                        085頁 

         
これは池袋上空*2での事らしい。こんなところで空中戦があったのか・・・。ゼロ戦の体当たり*3でB29一機を撃墜したのを防空壕の入り口から見上げているさま・・・・・・。

 

昔ならわびしき食卓の見本なれど決戦下昨今の食卓としてハ豪華極まるものとやいふべし 今朝三春、弁当の為罐を切りたるに俄然午后生鱈の配給あり 何日ぶりで魚との対面行はれしかその程も知らず いづれも長く棄ておけぬもの今日ハ節句なれバ・・・ 
                                        136頁 

                                  
この場面は“節句”の御馳走の配膳図。質素だが品数多く、普段は食することができない食材が並び、相当に楽しい雰囲気が感じられる絵である。しかしこれも戦中という事態の中での団欒のひと時であり、明日をも知れない状況に変わりは無いといえよう。

 

大相撲五年目
水も入れず昼夜力闘二年 力士既に汗みどろ 疲れ果てたる模様 (五・二十 零時)
                                       358頁

   
これはやや漫画風だが、『絶望山』と『再起山』という力士の1戦。土俵上でがっぷり四つに組合い、にっちもさっちもいかず、両者クタビレ果てている。戦後5年目で『絶望』と『再起』の間で悩める日本の様・・・
著者は出版社からの刊行依頼に最初気が乗らなかったそうだ。絵自体が『らくがき』気分ではじめたものだし、戦争経験者としては生々しすぎて商品にするには気が進まなかったという。だが戦争の資料として残すことが使命だと考え、刊行を決心したとの事。
絵がアップロードできればもっとリアルでいいのだが著作権の問題もあるのでやめておく。
いずれにせよ『絵』と『短い日記?』の構成で、当時の様子を伝える画集である。昭和史にこだわっている私としてはなかなかのヒット本だと思っている。
【目次】まえがき
戦中気侭画帳 ・・・ 003 
戦後気侭画帳 ・・・ 205
年表 ・・・ 408
あとがきにかえて  武井三春 ・・・ 412

*1:現在の東京芸術大学

*2:この画帳は著者住居近辺での出来事を書いたとまえがきにある

*3:これを目的とする戦闘機部隊を特攻隊と呼んだ