生命と地球の共進化


生命と地球の共進化 (NHKブックス)
【タイトル】  生命と地球の共進化
        はてな年間100冊読書クラブーNo.019
【著者】    川上紳一
【出版社】   NHKブックス
【発行年月日】 2000円5月10日
【版型 頁数】 四六版 267頁
【版 刷】   初版4刷
【ISBN】    4140018887
【価格】    1071円
【コメント】
なんともダイナミックなタイトルである。日頃試験管の中の細かく・小さな動きを見ているだけの生活をしていると、こういった大きなスケール・悠久の時を経た宇宙や地球の話を聞くと、自分の世界が如何に狭く、窮屈なものであるかといつも思ってしまう。だからこういった本を読むと俄然元気が出てくる。『あんまりせこいことばかり考えているといけないよ、もっと大らかに構えて生きないとね』と教えてくれる。
本書は地球科学と生命科学の融合ともいえる“地球惑星科学”の入門書である。地球の進化とは要するに宇宙の歴史における地球の誕生から現在に至るまでの『地球史』即ち地球の変化の歴史である。その歴史の中に生命の歴史、つまり生物進化を位置付け両者の関係を明らかにしようというのが目的のようである。
共進化というのは、例えば地球環境の変化が生命活動に影響し、その結果生物進化の方向が決定付けられたということが考えられるが、逆の関係も考えられる。例えば、生命誕生以前には、大気中の酸素濃度は大変に低く、地球表層では還元的な状態が維持されていた。そこに偶然に生じた有機物は還元的な作用を受けて分解されていたことになる。従ってメタンやアンモニア硫化水素といった物質が充満していたわけである。しかし、光合成生物の出現により大気中の酸素濃度が上昇した結果、地球表層での環境は酸化的な状態となり、二酸化炭素、硝酸、硫酸などの酸化物が生じてきたのである。こういった意味で両者が絡み合って進化してきたことを指して“共進化”と呼んでいる。
著者は岐阜大学教育学部助教授(当時)、専攻は縞々学(地球惑星科学)。本書は生物進化の本によく引用されているので、これは必読かと思い探していたが、偶然に近くの古書店で見つけたので購入した。なるほどコンパクトでかつ丁寧に書かれているので、初心者にも読みやすい入門書になっている。
序章から第2章までが地球科学関係の説明、特に第2章で“縞々学”の誕生が簡潔に示される。良く知らなかったがこの分野の誕生の発端は、例の物理学者・アバズレッツの『巨大隕石の衝突による大絶滅説』*1であるという。その後地層についての地質学、分析化学、古生物学などの成果を総合的に考察することにより、地球の変遷過程が明らかにされつつあるそうだ。この当たり広範な分野に渡っての共同研究が既に始まっているようで、『地球史』についてのダイナミックな成果が期待できると思われる。
第3章以下で生命の誕生から進化の過程がポイントを押さえてコンパクトに説明されている。この辺は以前に紹介した生命40億年全史など多数の類書がある。本書の特徴は既に述べたように、生物進化を地球の歴史に位置付けて論じたところであり、類書に無いところである。というわけで大変にいい本だったというのが結論である。
最後にもう1つ。この版元の科学書はとてもいいと思う。入門書が中心だが初学者にとってとても丁寧な作りの本が多く、価格も新書版2冊分ぐらいの内容があってこの値段はとても安い。著者の選定においても、その分野での現役バリバリの人を起用するなど、最新の内容を知るには適切な人選をしていると思われる。科学関係意外はあまり読んだことが無いので分からないが、たぶん事情は同じだろうと思っている。いろいろな入門書を必要とする向きには注目すべき出版社であると思う。
この新しい学問領域の発展によって、地球や生命の変遷が更に深く理解できるようになってほしいと願っている。
【目次】
まえがき ・・・ 1
序章 ・・・ 惑星学から地球学へ ・・・ 11
第1章 地球形成論から地球史へ ・・・ 23
第2章 縞々学から全地球史解読へ ・・・ 47
第3章 初期地球の生命像 ・・・ 71
第4章 光合成の成立と地腔の酸素汚染 ・・・ 105
第5章 原生代後期の大激変 ・・・ 145
第6章 多細胞動物への道 ・・・ 169
第7章 顕生代の生物進化と地球史 ・・・ 193
第8章 終章 地球と生命の未来 ・・・ 239
参考文献 ・・・ 261
あとがき ・・・ 265

*1:巨大隕石の衝突により全地球に渡って、大気中に大量の微粉が充満し、光合成が途絶えたため、実に95%の生物種が絶滅したという説。発表当時大論争を巻き起こしたが、現在は肯定派が多い。