スー 史上最大のティラノサウルス発掘


SUE スー 史上最大のティラノサウルス発掘
【タイトル】  スー 史上最大のティラノサウルス発掘  
        はてな年間100冊読書クラブ−No.020
【著者】    ピーター・ラーソンほか
【出版社】   朝日新聞社
【発行年月日】 2005年3月30日
【版型 頁数】 四六版 420頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4022500107
【価格】    3570円
【コメント】
恐竜が好きだ。どこがと聞かれれば、大きくて、強くて、迫力があって、あらゆる生物の中にあって、生物界の代表のような存在だからと思っている。実際、進化の過程にあって際限なく大きく・強く・多様に放散していったことを考えると、まさに代表にふさわしいと思われる。中生代に巨大で凶暴なティラノザウルスがそれこそ地響きを立ててのし歩いていたことを想像するだけでわくわくする。翼竜があの大きな翼を羽ばたかせて、大空を飛んでいる様はさぞかし迫力に満ちたものだったろうなと思う。はたまた魚竜が群を作って海を回遊する様も、草食恐竜と肉食恐竜の格闘も・・・・・・。
昨年日本でも大成功を収めた『恐竜展』*1にそのレプリカが展示された、人気者『スー』にまつわる発掘物語。発売してすぐに購入したが長らく本棚に眠っていた。その分厚さにかなり怯んだため取り掛かるのが遅れているうちに、その存在を忘れていた。恐竜本は好きなのでこれまで沢山読んでいるが、この本は生々しい所有者争いが描かれ、さすがアメリカという感じがする。はたして“恐竜化石は誰のものか”という大問題が裁判で争われたということ自体、日本では起こりえないような気がする。発掘者、土地所有者、州政府?など一体どう考えればすんなり所有者が決められるのか?日本でも、もし恐竜の全身骨格が出土したら、同じように裁判になるのだろうか?わからない。地主と発掘者で言い争いをいている間に、おそらく文部科学省あたりがシャシャリ出て来るのかもしれないし、ひょっとしてアメリカから『恐竜ハンター』がやってきて、札束を振り回して買い去っていくのかもしれない。そう、恐竜ハンターという“職業”があること自体がやはりアメリカらしいのだろう。
著者は、『ブラックヒルズ研究所』の代表でこの物語の主人公の一人である。この研究所は恐竜化石を発掘、クリーニング、組み立てて公共博物館等へ収めることを生業とする民間企業である。最初に思ったことは、こんな“業務”を行う会社が果たして成り立つのだろうかということであったが、アメリカでは高度な技術を持ったこの会社は、公共博物館や大学博物館でも好評で、研究材料をリーゾナブルな価格で提供してくれる民間企業として重宝されているという。発掘の苦労、経費、人員、クリーニング技術などのコストを考えると、“外注”により化石を入手するのも一つの方法であるという合理的な論理に基づいた判断だと思われる。しかし1部の大学教授などには当然受けが悪く、批判の対象にされているようだ。そもそもこの辺から日本とは事情が全く異なるので、読者には何か異質な次元の話に思えてしまうかもしれない。親方日の丸、公務員天国のこの国では、こんな会社は無いだろうし、そもそもこんな会社と取引しようという博物館、大学がないだろうと思う。公共の財産であるべき恐竜化石を法外な値段で、“商品”として扱う『胡散臭いヤツら』だと・・・・・・。
どうも日常的な価値観のベースが余りにかけ離れていると冷静な判断ができなくなってしまい、ともすればアメリカの科学界がとんでもなく異常な世界だという錯覚に陥ってしまう。日本が正常で、アメリカが異常だという錯覚に・・・。しかし国内の事情や歴史的背景を考えるとアメリカのやり方も理解できるのではないかと思う。逆に理解しがたいのは州やFBI*2のやり方である。どうして民間会社と土地所有者の揉め事に軍隊(州兵)まで動員されるのか?日本とは違う国だからということでは答えにならない。この辺はアメリカ国内でも相当に議論されたようで、大きな騒動になったようだ。
どうも裁判がらみの経過の印象が強すぎて、著者の伝えたいことを見誤ってはいけないと思う。こういった生臭いお話も真実を知る上で大事だが、やはり恐竜の物語は恐竜が主役であるべきだ。本書の多くの部分が恐竜研究者としての観察眼から見た恐竜発掘物語である。あたりまえか。その辺は過去に読んだ恐竜本と同じく、著者の恐竜への思いが生き生きと語られる。大学、博物館に所属する人たちと変わらない思いである。
以上読後感としてはどうもすっきりしないもやもやした物が残った。『恐竜化石は誰のものか?』になぜ土地管理局の役人の思惑やFBI、軍隊まで絡んでくるのか?再度読み直して、アメリカという国を考えるしかないかと思っている。
というわけでなにやら恐竜と関係ない(だろう)ことに思いがいってしまった本である。
【目次】
日本語版の読者のために ・・・ 鄯
序文 ロバート・T・パッカー ・・・ 酈
著者まえがき ・・・ 醱鄯
プロローグ ・・・ 7
第1章 スーという名の恐竜 ・・・ 9
第2章 過去の発見者と三つぞろいスーツ ・・・ 25
第3章 やっと自由に ・・・ 63
第4章 唯一無二のレックスとその性別 ・・・ 97
第5章 一連の証拠 ・・・ 127
第6章 落ち着きの無い子供 ・・・ 179
第7章 途方も無い隔たり ・・・ 219
第8章 T・レックス裁判 ・・・ 261
第9章 評決 ・・・ 305
第10章 息つくひま ・・・ 319
第11章 家族の勝ち ・・・ 361
第12章 死後の世界 ・・・ 391
エピローグ ・・・ 407
付録 / 謝辞 / 注/ 参考文献 / 索引

*1:国立科学博物館朝日新聞社主催、東京、名古屋、大阪、福岡で開催された。

*2:Federal Bureau of Investigation、アメリカ合衆国連邦捜査局。司法省下の組織で、州を越える・または複数の州に渡る犯罪や、テロ・誘拐・スパイなど国家に対する重犯罪、連邦職員の犯罪の捜査を担当する機関である。−WikiPediaより−