ヒトデ学 棘皮動物のミラクルワールド


ヒトデ学―棘皮動物のミラクルワールド  ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)
【タイトル】  ヒトデ学 棘皮動物のミラクルワールド
        はてな年間100冊読書クラブ−No.022
【編著者】   本川達雄 
【出版社】   東海大学出版会
【発行年月日】 2001年10月20日
【版型 頁数】 A5版変型 259頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4486015525
【価格】    2940円
【コメント】
本書はヒトデに代表される『棘皮動物』の生物学についての入門書である。石灰質でできた刺(とげ)のついた皮を持つ動物の一群を棘皮動物(きょくひどうぶつ)という。ヒトデ、ウニ、ナマコ、ウミユリなどが代表的だ。これらの生物学は通常、大学の講義では無脊椎動物学という科目で扱われる。エビ・カニなどの節足動物、貝、タコなどの軟体動物も同様である。従って日本では“棘皮動物”だけを扱った書物が少ない。殆ど無いといってもよい。しかしそんなものを研究している人も殆どいないだろうと思っていたら、これは間違いで、理学部生物学科、農学部水産学科などにはかなり多くの人がこれら無脊椎動物を研究している。こんなヘンな生き物を研究している人が意外に多いのは驚きだが、これには理由がある。まず生物を研究する際に重要な要素である実験材料としての性質である。入手しやすく、飼育がしやすいなどの点でこれらの動物は大いに優れている。発生の研究に良く使われるウニの卵は、大きく透明で細胞分裂など発生の様子が観察しやすいためにこの分野ではおなじみの材料となっている。また最近では“再生医療”の観点からヒトデの再生機構を研究する例が多い。何しろヒトデというのは5本足から1本の足を引きちぎっても、その1本から4本の足が生えてきて1個体になってしまうという“離れ業”をやってのける。これらの機構を分子レベルで解析し、医療に応用しようと考えているわけである。この辺は8章に詳しい解説がある。その他には当然ながらウニ、ナマコというのは食料としても重要で、養殖の対象になっているため、水産学関係ではその栄養・生理・繁殖・養殖技術などがよく研究されている。これは10、11章に詳しい。
といったように、本書は珍しく・ヘンな動物たちの生理や生活を『まじめに』解説した本である。編著者は東京工業大学大学院生命理工学研究科教授、生体システム専攻。10数年前だったか、『ゾウの時間・ネズミの時間』・中公新書の大ヒットで華々しく登場し、『歌う生物学』・講談社でヘンな先生とマスコミなどでも取り上げられ売れっ子になった先生である。『歌う生物学・CD版』まで出版してしまった。しかし本人はいたって真面目で、それまで地味であまり世間では注目されなかった無脊椎動物学、特に棘皮動物学を世に紹介し、知らしめたいのですとコメントしていたのが印象に残っている。
私がこれらヘンな動物たちに興味があるのは、これらの生物は生命の基本型、最初期の生命活動様式を良く残していると考えられるからだ。先に紹介した『線虫』や『粘菌』と同じくこれら無脊椎動物たちも“より原始的だが逞しい”生命像を保っている。ヒトデの再生機構などはその最たるもので、本来、生命はこれぐらいのふてぶてしさというか逞しさを備えたものだったのだと思っている。時代を経て進化が進むにつれ、体の構造や生理的調節機構、脳の発達、社会の形成、行動様式などが複雑化し、その代償として再生能力という“ミラクルな能力・仕組み”を失っていったと思われる。そういった進化の観点からこれらのミラクルな生物像を考えると、生命の歴史が見えてくるように思えるのである。だからここのところ古生物や無脊椎動物など普段あまり真剣に考えたことがなかったような生物たちが面白いと思っている。そんなこんなでまたまた話がまとまらなくなってきたのでこの辺でおしまいにしよう。
最後に、この東海大学出版会という出版社は水生生物学のユニークな書物をいろいろ出しており、小生お気に入りの版元の1つである。今後とも注目していきたいと考えている。
【目次】
はじめに ・・・ 鄯
1章 ・・・ 棘皮動物はミラクルがいっぱい(本川達雄) ・・・ 1 / 2章 ヒトデの食生活(野島哲) ・・・ 25 / 3章 骨と皮のミラクル(本川達雄) ・・・ 47 / 4章 ウミユリのミラクル(大路樹生) ・・・ 79 /5章 化石−棘皮動物のパラダイス1(大路樹生) ・・・ 93 / 6章 深海−棘皮動物のパラダイス2(藤田敏彦)・・・ 107 / 7章 砂掘りの名人芸(金沢謙一) ・・・ 125 / 8章 分身の術(藤田敏彦) ・・・ 149 / 9章 ウニの食生活(吾妻行雄)・・・ 159 / 10章 ウニ−グルメの水産学1(吾妻行雄) ・・・ 177 / 11章 ナマコ−グルメの水産学2(伊藤史郎)・・・ 199 / 12章 遺伝子から考える(三戸太郎) ・・・ 215 / 13章 幼生たちの世界(小松美英子) ・・・ 229
あとがき ・・・ 257
参考文献 ・・・ 鄯
棘皮動物かぞえうた ・・・ 酛
分類表 ・・・ 醞