東條英機と天皇の時代


東條英機と天皇の時代 (ちくま文庫)
【タイトル】  東條英機天皇の時代  はてな年間100冊読書クラブーNo.029
【著者】    保阪正康
【出版社】   筑摩書房ちくま文庫
【発行年月日】 2005年11月10日
【版型 頁数】 文庫版 699頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4480421637
【価格】    1260円
【コメント】
本書は「伝統と現代社」より、1979年上巻が、1980年に下巻が出版されたものを合本して1988年に文春文庫より出版された本の復刻版である。ちくま文庫の目録で見つけ面白そうなので購入した。「東條英機」という一人の軍人・政治家の伝記と昭和史とを絡めて語るという形式で記述するノンフィクションである。戦時体制、戦争を指導した張本人その人を描くことで、より生々しい昭和の証言として位置付けられると思う。
著者は、数多くの昭和史に関する著作のあるノンフィクション作家・昭和史研究家。昭和だけで一体何冊の本を書いているのか、ものすごい数である。また政治や戦争だけでなく幅広いテーマで昭和について書き留めている作家である。*1
本書については、ノンフィクションとは言うものの、関係者の証言、資料をもとにして作家が描いた“フィクション”といえなくも無い作品である。このあたりは学者の書く「日本近現代史」とは大きく異なる点である。何が異なるのか?著者本人の実体験としての“戦争”への思い入れ、主観が大層強いのがフィクション、出来るだけ主観を排して記述しようとする*2のが歴史学書だと思う。
まえがきで著者が述べているとおり、第一章は「東條英機と彼を作った時代」、第二、三章が「東條英機と彼が作った時代」、第四章が「東條英機と彼を捨てた時代」という意味合いで構成されている。
軍部と政治については、学校ではなかなか詳しいことを教えてくれない。そもそも軍部について積極的に当局や自衛隊から記録や資料が出てくることが無いので一般人には良く分からないというのが実感ではないか?むしろ占領時に押収された資料の1部がアメリカで公開されることにより、真実が日本に知らされるというようなことがよくある。自衛隊幹部は苦々しく思っているだろうが・・・。戦後60年も過ぎたのだから、総括として資料を洗いざらい公開し、国民に当時の真実を分かるようにしてもらいたいと思っている。そして皆がよく考え、国内政治や諸外国との関係にその教訓をフィードバックしてほしい。ドイツがやっているように・・・。
東條英機という人は、これまで断片的にしか知らなかったが、こういう伝記スタイルで書かれたものを読むとその人物像がイメージしやすい。なるほど生粋の軍人であり、天皇の軍隊幹部であると思う。父親が陸軍幹部で本人も14歳で軍人になったというから、多分ほかの世界を殆ど知らずに、幹部に上りつめたのだろう。こういう人が指導者になった軍隊というのは大変危険だろうなきっと。
というわけで、なにやらいろいろ手を出しすぎ、あっちこっちに気が散ってしまったので、まだ昭和という時代を良く理解できていないなという感がある。少しメモなどとらなくてはと考えている。
【目次】まえがき ・・・ 7 
第一章 忠実なる信奉者 ・・・ 16 / 第二章 落魄、そして昇龍 ・・・ 190 / 第三章敗北の軌跡 ・・・ 352 / 第四章 洗脳された服従者 ・・・ 544 
参考文献資料 ・・・ 680
あとがき ・・・ 690
文庫版のためのあとがき ・・・ 693

*1:例えば、昭和史7つの謎・講談社文庫、秩父宮・中公文庫など

*2:完全に主観を排することは不可能なのだが・・・