動物分類学30講 図説生物学30講 動物編2


動物分類学30講 (図説生物学30講 動物編)
【タイトル】  動物分類学30講 図説生物学30講 動物編2
        はてな年間100冊読書クラブ−No.031
【著者】    馬渡俊輔
【出版社】   朝倉書店
【発行年月日】 2006年4月25日
【版型 頁数】 B5版 178頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    425417702X
【価格】    3570円
【コメント】
朝倉書店の新シリーズ、図説生物学30講 動物編の第2巻である。このシリーズは動物編の他に植物編、環境編が企画されており、そのタイトルから大変に期待が持てるシリーズだと思っている。30講というタイトルの通り、全体を30回の講義で終了できるように構成されている教科書シリーズで、分かりやすくというのが強調されている。
動物編では既に第1巻、石原勝敏・『生命のしくみ』が刊行されているが今後続々と面白そうな本が刊行されることになっているので、いまからぞくぞくしている。そもそも生物学関係でこれほどの大型企画があるのはめったに無いので、おそらく日本中の関係者が期待していると思われる。
本書は全ての生物学関連科目の基礎となる動物分類学の教科書である。生物を分類するということは、未知の生物を生物系統樹のどの位置に配し、どう位置付けるか、我々人間とどのような関係にあるかなどを明らかにすることである。分類学の方法論、理論、体系はこの30年余りの間に、それ以前と比べて大幅に進歩した。主として遺伝学と数理統計学を取り込み、遺伝形質の量的検討、変異の程度などを数値化することで、定量的な議論が可能になったことが大きいと思われる。生物系統学、分子系統学、進化生物学など所謂“理論生物学”のメインの位置にある学問だといえるようになってきた。その辺のところがそれまでの地味で目立たない学問という印象を払拭し、今では生物学における最もホットな分野の1つになっている。
著者は北海道大学大学院理学研究科教授、動物分類学専攻、この分野での第1人者として論文、著書多数、名著『動物分類学の論理』・東京大学出版会の著者でもある。
1〜8講は分類学とは何かに関する説明、第9講〜20講が実際の分類過程のモデルによる説明であり、初めての人にもわかりやすい工夫であると思われる。第21章以下は分類の考え方というか、分類することが一体何を意味するのかについて哲学的定義ともいえる論考である。このあたり重要だが相当に頭が痛くなる内容である。こういったことを突き詰めて考える習慣が無い人には特にややこしい話である。
以上教科書とはいっても、基礎中の基礎だけに私には哲学書のような定義、定義の連続で頭が痛くなるような話である。量子論、分子論、宇宙論などもそうだが一般化した議論になるとまさに哲学的な論理展開そのものになってしまう。そういう意味では大変難解で厄介な内容である。しかし重要な分野であるので是非この辺は理解しておきたいと思っている。
【目次】
第1講  生物世界を概観する (1)三次元構造と分類体系 ・・・ 1
第2講  生物世界を概観する (2)階層構造と時間 ・・・7
第3講  生物の普遍性 ・・・ 11
第4講  生物の多様性 ・・・ 19
第5講  生物と時間 ・・・ 26
第6講  至近要因と究極要因 ・・・ 32
第7講  至近要因と究極要因の研究法 ・・・ 37
第8講  分類学の位置付け ・・・ 42
第9講  分類学研究の実例 (1)バックグラウンド情報 ・・・ 46
第10講 分類学研究の実例 (2)既知種の再記載 ・・・ 53
第11講 分類学研究の実例 (3)主観のギャップを探す ・・・ 60
第12講 分類学研究の実例 (4)新種の発見と記載 ・・・ 68
第13講 分類学研究の実例 (5)出版物の基準 ・・・ 73
第14講 種分類学の位置付け ・・・ 79
第15講 体系分類の方法と種超タクソンの意味 ・・・ 85
第16講 何を分類したのか? ・・・ 90第17講 何に名をつけるべきか? ・・・ 97
第18講 種超タクソンの命名 ・・・ 101
第19講 国際命名規約と二語名法 ・・・ 106
第20講 国際動物命名規約と国際植物命名規約の相違点 ・・・ 112
第21講 種とは何か:種概念の変遷 ・・・ 115
第22講 種の内部構造 ・・・ 119
第23講 種分類の問題点 (1)隠蔽種 ・・・ 125
第24講 種分類の問題点 (2)生殖的隔離が不完全な場合 ・・・ 130
第25講 生物学的種概念以降に提唱された種概念 ・・・ 134
第26講 種分化 ・・・ 139
第27講 進化論と系統分類 ・・・ 144
第28講 種分類から体系分類へ ・・・ 149
第29講 分類学の成果の利用 ・・・ 156
第30講 生物多様性の危機と分類学 ・・・ 164
参考図書 ・・・ 169
引用文献 ・・・ 173
索引 ・・・ 175