大磯随想 日本人はもっと自信を持つべきだ


大磯随想 (中公文庫―BIBLIO20世紀)
【タイトル】  大磯随想 日本人はもっと自信を持つべきだ
        はてな年間100冊読書クラブ−No.033
【著者】    吉田茂
【出版社】   中央公論新社
【発行年月日】 1991年10月10日
【版型 頁数】 文庫版 141頁
【版 刷】   第2版 ?
【ISBN】    4122039525
【価格】    620円
【コメント】
本書は戦前から戦中、戦後と日本の政界の中枢に在った大物政治家のエッセイ集、中公文庫BIBLIOシリーズの1冊で、昭和史の記録・資料として重要と考え購入した。
大磯は神奈川県三浦半島にある高級住宅地・別荘地として名高いが、政界引退後この地に居を構え、自らの政治キャリアーとその後の日本の政治を語る論文集とも言える内容である。朝日新聞社刊行の英文年刊誌「This is Japan」に1957年から1962年にかけて掲載されたものを文庫サイズに編集し、御子息によるあとがき、渡邉による解説を付した。全141頁、そのうち吉田による本文は120頁ほどの小作りの本ではあるが、中身は昭和史の記録として重要であり、また大いに教訓的であり、現代の政治にとっても示唆に富むと思われる。
本書を読んで、吉田茂という、元政治指導者としての考え方の特徴を見ることができると思う。第1は民主主義についてである。基本的には政治は民主主義により進めるべきだとしながらも、これが万能ではなく行き過ぎた民主主義はかえって意思決定システムとしては非効率であるとする点である。戦前までの専制政治ではいけないが、1部の“優秀な人達”が民主主義を介さずに国策を決定する場合がもっとあったほうが良いと述べている。この辺は議論の余地がある。確かにスピーディな意思決定が最も重要である場合が多々あるが、それが日本国全体にとって有益かどうかは保証されない。1部の人達の利益になるだけの政策では困るのである。
第2点は、国防問題である。この書物が書かれたのは戦後の占領期がおわり、自主独立に歩みだしてから10余年、丁度60年安保の時期を前後する時期である。“ソ連”、“中共”、“支那”という単語が多く用いられているが、当時の政治家が共産主義の防波堤としての日本を強く意識していた事が良くわかる。平成の時代とはだいぶ事情が異なり、戦後すぐの国防についての考え方が端的に語られていて生々しい。また“自由主義経済”という言葉が盛んに出てくる。この頃すでに“自由主義”という言葉を指導者達が使って、“社会主義”や“共産主義”に対抗する意識を表していることが分かる。本来、社会主義共産主義経済という用語の対語としては『資本主義経済』というのが正式な政治経済学用語であるはずだ。明らかに社会主義共産主義の“不自由さ”を強調する意図が見て取れる。
その他にも、当時既に参議院の政党化が進み、第2衆議院に成り下がっている問題にも触れている点は興味深い。
あまりに膨大で重要な仕事をした人なので、この著者の略歴を短くまとめるのは私には困難だが、外務官僚、政治家として活躍し、5回にわたって内閣を組織した人物である。豪胆な性格で、かつて衆議院解散時に「バカ野郎」と怒鳴り、後世に“バカ野郎開散”などと語られる逸話も残している。
以上のように、短い文章ながら当時の社会・政治情勢、指導者達や民衆の考え方などを知る上で貴重な記録が多数盛り込まれていると思われる本である
【目次】
政治の貧困 ・・・ 7
思い出づるままに ・・・ 19
海浜にて ・・・ 29外交と感 ・・・ 43
偶感 ・・・ 53
大磯随想 ・・・ 63
後記 吉田健一 ・・・ 75
著者略年譜 ・・・ 79
Random Thoughts from Oiso ・・・ 130
解説 渡邉昭夫 ・・・ 132