冠婚葬祭のひみつ


冠婚葬祭のひみつ (岩波新書)
【タイトル】  冠婚葬祭のひみつ  はてな年間100冊読書クラブ−No。034
【著者】    斎藤美奈子
【出版社】   岩波書店(岩波新書1004)
【発行年月日】 2006年5月12日
【版型 頁数】 新書版 224頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4004310040
【価格】    777円
【コメント】
新装なった岩波新書新赤版の第1弾として刊行された1冊、広告のタイトル・紹介文を読んで興味を持った。普段はあまり意識していないが、いざというときに大変に重要と思っていた。また少しこの方面の知識も必要だし、特に葬儀についてはいろいろとしきたりが多く、また仏教の宗派により少しづつやり方が違うのでその辺も知っておかなければと思っている。この本は冠婚葬祭の歴史や意味、現代的な変容についての考察などが主体の本なので、ハウツー本とは違うだろうと思っていたが・・・。
はじめにで述べている指摘、

つまり冠婚葬祭とは、「生物としてのヒト」を文化的な存在にするための発明品だったのではないか、冠婚葬祭という儀礼の衣を剥ぐと、その下から生々しい身体上の諸現象なのだ。結婚とは一皮剥けば性と生殖の公認にほかならず、葬送は肉体の死。元服を迎える15歳前後は第二時性徴期である。すなわち冠は「第二時性徴期に社会化」、婚は「性と生殖の社会化」、葬は「死の社会化」、そして祭は「肉体を失った魂の社会化」。儀礼は生理を文化に昇格させる装置だったのではないか。

は、まさに“冠婚葬祭”の意味を端的に言い得ていると思う。要は社会的な意味合いが確立されてこそ世間一般の“儀礼”になり得るのであるが・・・。
第1章は冠婚葬祭の歴史的変遷についての解説である。意外だったのは宗教と冠婚葬祭の関係はかなり時代を下った頃になってからのことであるということ。葬送は江戸後期、結婚は明治以後であるそうな。それ以前は全くの無宗教で執り行われていたとは全く知らなかった。その後第2章で結婚の今、第3章で葬送の今、これからが述べられるという構成になっている。2、3章はかなりの部分がハウツー的内容になっている。
読後感は・・・・・・、どうもいけない。この話は本当かねという箇所が多くある。以下に幾つかをまとめる。
著者の説によれば、歴代のロイヤルウェディングが新しい時代の結婚式のトレンド、モデルになったと言う。例えば、1900年(明治33年)5月10日、皇太子嘉仁(よしひと、後の大正天皇)と九条貞子(貞明皇后)の婚礼である。このとき以来神前結婚式が始まったとする。それまではどうだったのか?一般人の婚礼は無宗教だったとしても、皇族と神道の結びつきは古く、それ以前も神前結婚ではなかったのか?この辺の検証が説明されていない。またこの婚礼が果たしてトレンドになったのか?だいたいこの時代に、これらの情報がすぐさま全国各地に詳細に伝わるすべもなく、トレンドになどなりえないではないかと思うが・・・。皇室情報を伝える手段としては新聞が考えられるが、その辺の検証はどうなっているのだろう。
また冠婚葬祭のスタイルの変遷は市民の潜在ニーズにマッチした“商品”を開発したビジネスマン達によって常にリードされてきたという説は、全く持ってそのとおりと賛同できるが、それを国民に広めた要因としてのマスメディア、広告業についての役割が全く議論されていない。更には消費者としての国民の経済力、年収の変遷なども論考に組み込むべきであるのにこれらには全く触れていない。
他にもいろいろ疑問に思われる点が多々ある。総じていろんな資料を駆使しているように見えるが、その根源に迫るほどの“検証”がされていないという印象が強い。ちょっと期待はずれ・・・。
それにしても岩波新書のこれまでのスタイルとはだいぶ違う文体である。この文体は芸能週刊誌等によくあるものであろうか?どうもしっくりこない。新赤版リニューアルのキャッチフレーズ『変わりますが、変わりません』の一端なのだろうか?この辺は他所の評価を待ちたいと思う。なお著者は文学作品から社会現象まで幅広く取り上げる文芸評論家、小説もかくらしく、著書多数。たしか別冊『図書 岩波新書リニューアル特集』で岩波新書についての対談をしていたと思う。同新書では新しいタイプの書き手であろう。



【目次】
はじめに 
第1章 冠婚葬祭の百年 ・・・ 1
第2章 いまどきの結婚 ・・・ 99
第3章 葬送のこれから ・・・ 153
もっと知りたい人のためのブックガイド ・・・ 210
主な参考文献 ・・・ 214
あとがき ・・・ 223