岩波新書の歴史


岩波新書の歴史―付・総目録1938?2006 (岩波新書)
【タイトル】  岩波新書の歴史 付・総目録1938〜2006 
        はてな年間100冊読書クラブ−No.035
【著者】    鹿野政直
【出版社】   岩波書店岩波新書別冊9)
【発行年月日】 2006年5月19日
【版型 頁数】 新書版 本文386頁 総目録・索引174頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4004390095
【価格】    945円
【コメント】
支那事変勃発直後、1938年に創刊され、つい先日刊行点数が2500点に達した岩波新書の歴史・総解説、巻末に刊行年毎の総目録付き、新書としては破格の大著である。本文386頁、総目録・索引172頁もある。これで価格945円というのも破格であり、まさに出血大サービスの本である。学生時代よりお世話になっている一読者の立場からは、名著の読書案内として大変有用であるが、歴史的資料としても貴重な本となると思われる。
本書執筆に当たって、著者の基本的な立場は、

与えられた表題は、「岩波新書の歴史」と安定感を漂わせるものとなっているが、一九三一年生まれで日本近現代史を専攻する一男性という立場を踏まえた上での、「岩波新書の思想史」を目指すことにした。逆にいえば、岩波新書という窓を通して、「戦中・戦後思想史」を眺めようとしたことになるのかもしれない。  −まえがきより−

と述べている。結局68年間という長きに渡って、一定の「考え方」に基いて出版された一群(叢書)の総体を解説するということは、“思想の歴史”を語ることであるといえる。岩波新書は人文、社会、自然の各分野に渡って満遍なく*1刊行されているので、実際「思想史」としての出版物を語るにふさわしい叢書であろう。
本書では、創刊当時の赤版、青版、黄版、新赤版とデザインの変更された4つ時期を区切りとして時代背景、各分野、各時代毎の出版傾向と個々の本に付いてが概説される。それぞれの時代の思想、問題点、執筆者の意図など歴史的な意味も解説されている。
本書において特に注目する点は、発刊当時の社会情勢が“自由な出版”にとって極めて厳しい時代だったにもかかわらず、岩波茂雄吉野源三郎小林勇などの強靭な意志により、「現代的教養」のための新書を廉価で出版したという点である。当局による検閲、出版制限(事実上の禁止)、更には彼ら自身の検挙など困難ことが多かったようで・・・・・・。その辺りは、序章に詳しく、生々しい解説がある。
著者は日本近現代史専攻、早稲田大学名誉教授、論文・著作多数。
最後になるが、私は2500点という膨大な叢書を、一人の著者が、限られた頁内で総解説しようなどという大それた企てを実施・実現し、本書を上程された著者に敬意を表する。
【目次】
はじめに
序章 「新書」の誕生 ・・・ 1
 岩波書店の歴史の中で/時局の中で/綱領と指針/出版文化の中で/新書と「教養」
1章 「文化建設の一兵卒として」 −赤版の時代− ・・・ 25
 はじめに/中国を知ろう/「日本的」とは何か/列強史の視点/戦争を考える/科学的な思考へのいざない/
 人生のために/赤版の終焉
2章 「国民大衆に精神的自立の糧を提供せん」 −青版の時代− ・・・ 65
 はじめに/「戦後」という時代への出発/「日本」の問い直し/アジアという課題/冷戦のもとで/
 経済が主役となった/社会科学と人間/宇宙と人体へと向かった科学/生きることへの励まし/
 公害問題を突き出す/沖縄を見つめる/せりあがる「国家」に対峙して/世界の鼓動・世界の息吹/
 文明の病理の主題化
3章 「戦後はすでに終焉を見た」 −黄版の時代− ・・・ 173
 はじめに/曲がり角の予感に立って/「生きる場」を求める思索/文明論と民俗誌/性の尺度を問う視点から/
 「戦後」の検証/「教養」の溶解/日本史を考える/「言葉」が焦点となる
4章 「新世紀につながる時代に対応したい」 −新赤版の時代= ・・・ 241
 はしめに/「個の深み」に根ざす地点から/「戦後」の対象化/「豊かさ」を問う/天皇・戦争・災害/
 「日本」をどう超えるか/経済システムを洗う/冷戦後の世界を追跡する/自然科学の挑戦と警告/
 問われるメディア/人生が主題となる/心身をめぐって/未来へ
あとがき ・・・ 373
付録 岩波新書総目録 ・・・ 375
著訳編者名索引 ・・・ 40
書名索引 ・・・ 1

*1:他の新書ではこれだけバランスよく全分野に渡る書目が充実しているものはないといえる。中公新書がやや近いかもしれないが、自然科学系の割合はずっと少ない。