深海生物ファイル


深海生物ファイル―あなたの知らない暗黒世界の住人たち
【タイトル】  深海生物ファイル はてな年間100冊読書クラブ−No.039
【著者】    北村雄一 編集協力:独立行政法人 海洋研究開発機構
【出版社】   ネコ・パブリッシング
【発行年月日】 2005年11月24日
【版型 頁数】 A5版 238頁
【版 刷】   初版5刷
【ISBN】    4777051250
【価格】    1700円
【コメント】
著者はイラストレーター、フリージャーナリスト。主に手がけるのは、系統学、進化、深海、恐竜、極限環境、科学などの分野。
本書は普段我々が簡単にはお目にかかれないような“深海生物”の写真集、図鑑、解説書である。一般向けの啓蒙書として編集されているので、大変読み易くわかりやすい内容となっている。一項目を見開きの左頁に解説、右頁に写真またはイラストという配置で記述され、どこからでも読めるので気になる絵や種名を拾いながら読み進むことも可能である。なお本書刊行に際しては編集協力として独立行政法人海洋研究開発機構*1が支援している。
一般に深度200mまでを大陸棚と呼ぶが、我々におなじみの魚や海洋性の動物は殆どがこの海域に生息しているものである。『マダイ』はかなり深い水層で生活しているということは釣り人なら良くご存知のことだが、それでもせいぜい100m程度の深さであり、海洋学、水産学で言うところの“浅瀬”ということになる。深度200mになると太陽光は殆ど到達できず、「真暗闇」の世界である。おまけに10m深くなると1平方センチメートル辺り1kg*2の圧力がかかる高圧の世界でもある。こういう環境下で一生を過ごす生物達はそれなりに環境適応した体型、生理を獲得している。陸上の住人であるヒトやイヌ・ネコからみると相当に異なった生活をしており、ヘンな生き物であるといえる。
本書では1章で200〜700mに住む生物、2章で700から1000mという風に章が進むにつれて深度が高くなるという配列で構成されている。頁を進めるに従ってその“ヘン”の度合いが増していき、なにやら不気味な形の魚や虫たちが次々と登場する。実際深海魚というのは外見上の“下半身”部分が皆共通して尻切れトンボ様のウツボ型であり、“上半身”の大きさが異様に大きいので、なにか怖くて不気味な雰囲気を持つものが多い。イラストの描き方によってはとでも愛嬌のある風貌に見えることもあるのだが・・・・・・。例えば、チョウチンアンコウを横から見た写真、51頁は体の殆ど半分以上が頭部である。その先端に大きな歯を持った強大な口が付いており、その上のオデコ付近にチョウチンをぶら下げている。厳つい顔、凶暴そうな口とオデコの提灯という組合せがなんともアンバランスで珍妙な雰囲気である。“下半身”部分は通常の浅瀬の魚に比べ、大変に小さくあまり泳ぎは得意ではないように見えるし、体全体のプロポーションがなんともユーモラスである。一体なんでこんな風な体型になってしまったのか?厳つい顔は何を語っているのか?深海の食生活が恵まれていないことへの“怒り”がつもり積もって、このような怖い顔つきになってしまったのだろうか?
そんなわけで写真集を見る感覚で深海生物の不思議な活動を眺め、その生活を想像してみるという図鑑ならではの楽しい本となっている。生物好き、ヘンな物好きの読書子にお薦めの本である。
【目次】
はじめに ・・・ 1 / 本書の読み方 ・・・ 8 / 深海を読み解くキーワード ・・・ 9 
深海生物生物ギャラリー 脊椎動物 魚の仲間 ・・・ 19 /
無脊椎動物 くらげの仲間 ・・・ 54 / イカ・タコの仲間 ・・・ 64 ・・・ ナマコの仲間 ・・・ 72
節足動物 エビの仲間 ・・・ 78 / その他の節足動物 ・・・ 82 / その他の無脊椎動物 ・・・ 86 / 化学合成生物群集 / 90
第1章 200〜700mに棲む生物 ・・・ 98
第2章 700〜1000mに棲む生物 ・・・ 140
第3章 1000〜3000mに棲む生物 ・・・ 164
第4章 3000〜6000mに棲む生物 ・・・ 190
第5章 6000m〜に棲む生物 ・・・ 206
第6章 化学合成生物群集 ・・・ 216
おわりに ・・・ 230 / 主な参考文献 ・・・ 232 / 用語集 ・・・ 234 / インデックス ・・・ 235

*1:文部科学省所轄の旧海洋科学技術センターが04年に独立行政法人となり改称した。調査船、潜航艇を有し日本近海を中心とした海洋の調査・研究を行っている。

*2:これを1気圧という。200mで20気圧、6000mで600気圧という途方も無い高圧になる。