バイオロジー事始 異文化と出会った明治人たち  


バイオロジー事始―異文化と出会った明治人たち (歴史文化ライブラリー)
【タイトル】  バイオロジー事始 異文化と出会った明治人たち
        はてな年間100冊読書クラブ−No.046  
【著者】    鈴木善次
【出版社】   吉川弘文館
【発行年月日】 2005年4月1日
【版型 頁数】 四六版 197頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4642055886
【価格】    1785円
【コメント】
本書の内容を一口で言えば、広義の“生物学”が明治期に輸入され、外国人研究者の指導のもとでの日本人研究者の成長・自立、その成果の社会的普及の流れを分野毎に整理した生物学史の概説書である。分野とは、簡単に言えば一般生物学(理学)、医学生物学(医学)、栄養学・農業生物学(農学)である。*1ここで理学、医学と同列に農学も列挙したところが本書の特徴といえる。即ち一般の生物学史においては、農学関係は別物として扱うケースが多いからである。農学とは実学であり、技術であり、科学ではなく、その歴史は“技術史”の項に入れるというのがなぜか一般的であったが*2、本書は同列に扱っているのである。著者は大阪教育大学名誉教授、専攻は記されていない。
本書にて食農という言葉を始めて知った。考えてみれば食と農はかなり密接な関係にあり、食農という熟語の持つイメージも直ぐに理解できる。本書ではこの食農に関する生物学、言ってみれば栄養学と農業生物学の位置付けが高い。当然だと思う。人類の歴史において、ある意味では人の生活や生命に最も貢献している分野であるからである。今までの生物学史において農学関係の位置付けが低すぎたのである。どうしてこうなったのかについては別途書きたい。
吉川弘文館という歴史学専門書の出版社からこのような書物が出版されたところがユニークだと思う。確かに本書を読んで、科学史の1分野というより、文化史の一断片としての生物学を見たような気がする。どんな読者を想定して本書が書かれたかを考えると、大学の科学史の教科書というより、日本近代文化史の副読本という意図が強いように思われる。いずれにせよ科学読み物として面白い本である。
残念なのは、参考文献が無いことである。明治時代の専門書は本文頁に紹介されているが、著者が考察する際に考え方を参考にした文献が必ずあるはずである。これらはやはりまとめて巻末に示すべきであり、より進んで勉強したい向きに活用させるべきだろうと思う。
【目次】
「日本の近代化」と「バイオロジー」 − プロローグ ・・・ 1
バイオロジーの受容 訳語をめぐる状況 ・・・ 14
 西洋人から日本人へ ・・・ 21
 専門家から一般市民への普及 ・・・ 37
「生命」をめぐる状況
 近代生物学受容体制の整備と日本人研究者たちの自立 ・・・ 58
 遺伝学/進化論の受容と普及 ・・・ 72
 生物学と社会の関係 ・・・ 90
「医」をめぐる状況 
 西洋の「医」の移植 ・・・ 108
 「医」の専門家たち ・・・ 115
 生物学的医学の展開と日本人の活躍 ・・・ 127
 一般市民への「医」の知識の普及 ・・・ 139
「食農」をめぐる状況
 西洋の「食農」の紹介 ・・・ 154
 生物学的「食農」研究と日本人 ・・・ 165
 人々への「食農」知識の普及 ・・・ 175
バイオロジーの将来展望と日本人 ・・・ 189
あとがき

*1:括弧内は研究・教育の場としての“学部”に相当しようか

*2:私はこの解釈・分類は誤っていると思うし、同意しない。