南方熊楠英文論考 ネイチャー誌扁  


南方熊楠英文論考「ネイチャー」誌篇
【タイトル】  南方熊楠英文論考 ネイチャー誌扁  はてな年間100冊読書クラブ−No.053  
【監修】    飯倉照平
【出版社】   集英社
【発行年月日】 2005年12月20日
【版型 頁数】 A5版 421頁
【版 刷】   初版1刷
【ISBN】    4087813320
【価格】    5880円
【コメント】
南方熊楠という人は一言で紹介しきれないほど多彩でユニークな研究成果を残した、日本の近代科学の巨人であろう。自然科学分野の日本人研究者で、その人の業績についてこれだけ多くの研究書があるのも、他に例が無いだろう。野口英世北里柴三郎鈴木梅太郎長岡半太郎、本田光太郎・・・・・・。いずれも近代日本において傑出した科学者であったが、熊楠ほど多方面で国際的に活躍した人は見当たらない。
私がこの人の仕事の中で最も興味があるのは、粘菌をはじめとする生物学関連の著作であるが、中国古典に根ざした博物学的研究もまた多いにそそられる分野である。実はこの人のことは断片的にしか知らなかった。原典で読んだのは平凡社東洋文庫の『十二支考』ぐらいかな?後は解説本や科学史関係の本でいくらかふれただけ・・・。できれば死ぬまでにこの人の全集を読破したいと思っていた。今回いいタイミングでこの著作集が出版されたので、きちんと知っておきていと思い、購入した次第である。専門的な内容で、実に多方面に渡る著作集なので、やっぱり日本語で読むほうがね・・・。
本書は『南方熊楠全集』・平凡社にある英語論文の中から「ネイチャー」関連のものを全訳し、関連の文献や研究を併記し、熊楠の評価を試みる意味で編まれた。本文の他に自身による原注、監修者、翻訳者による補注が付されている。その取り扱う分野は民俗学、生物学、博物学など人文科学、自然科学にまたがった広範なものになる。従って全体を見渡すと、素人には訳がわからなくなる。一体この人はどんな経歴というか知的訓練、研究活動をしてきたのか?どうやったらこのような考え方、思想が生まれるのか?どうすりゃこんな人になってしまうの?と・・・・・・。だいたい粘菌などというヘンテコなものに興味を持ち、研究材料にしてしまうこと自体がヘンだ。現代でこそ分子生物学の材料として、その多彩でユニークで不可思議な生活史の故に、”モデル生物”として多くの研究が行われているが、当時こんなのをやっている人はそんなにいなかったはずだ。そういう意味で『先見的な』仕事であったといえるだろう。
そういえばこの人、英国より帰国してからは、和歌山県は田辺に隠遁し、在野の研究者として活動したが、相当に“変な人”として知られておる。所謂奇人・変人の日本代表みたいな人だったらしい。ただ執筆活動は活発で、多くの専門雑誌、一般雑誌、新聞などへの寄稿やら本の出版など多くの著作をものしている。20歳で東大予備門を中退し、日本を出国するまでに博物学本草学を修めていたというから、当然漢籍にも長じていたようだ。そして大英博物館での独学により、こんな人になってしまったのだろう。どうも我々小物から見ると、確かに枠からはみだした人であるという印象が強い。日本にもこういう桁外れのスケールの人がいたのかという感じ・・・。
もう1つ雑誌・ネイチャーについて。この雑誌は言うまでも無く現在の自然科学関係では最高に権威のある雑誌として有名であり、熊楠の英国時代には既に科学雑誌としての地位を得ていた。その雑誌に50編を発表しているそうで、これはネイチャー掲載の個人論分数としては最多記録ということだ。我々小物としては、自著がこれに掲載されること自体が途方も無いことで、この雑誌に掲載された論文の“引用文献”に載るものを1つ書ければいいなぁーなどと思っているぐらいである。やっぱりこの人は凄い!!!
十二支考 1 (東洋文庫 215) 十二支考 2 (東洋文庫 225)
【目次】
まえがき ・・・ 3
凡例 ・・・ 9
第1章 東洋の星座 ・・・ 19
第2章 東洋の科学しに関する小論 ・・・ 41
第3章 虻と蜂に関するフォークロア ・・・ 59
第4章 中国古代文明に関する小論 ・・・ 105
第5章 拇印考 ・・・ 123
第6章 マンドレイク ・・・ 141
第7章 さまよえるユダヤ人 ・・・ 161
第8章 驚くべき音響・死者の婚礼 ・・・ 187
第9章 ロスマ論争
第10章 ムカデクジラ ・・・ 225
第11章 日本の発見 ・・・ 257
第12章 日本の記録に見える食人の形跡 ・・・ 275
第13章 顕花植物研究 ・・・ 299
第14章 雑篇1 − 俗信・伝統医術 ・・・ 325
第15章 雑篇2 − 自然科学など ・・・ 349
あとがき ・・・ 378
「ネイチャー」掲載論文関係年表 ・・・ 384
英文論文と関連する日本語著作 ・・・ 403
書名索引 ・・・ 411
人名索引 ・・・ 421