最終戦争論  


最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)
【タイトル】  最終戦争論 はてな年間100冊読書クラブ−No.055 
【著者】    石原莞爾
【出版社】   中央公論新社(中公文庫BIBLIO20世紀 B1-11)
【発行年月日】 19993年7月10日
【版型 頁数】 文庫版 124頁
【版 刷】   改版6刷
【ISBN】    4122038987
【価格】    580円
【コメント】
早いもので、2006年も半分以上が終わり、後1ヶ月足らずで62回目の終戦記念日を迎える。毎年この時期になると「戦争」関係の書物や報道が多くなる。私といえば、これまでこの方面に真正面から対することも無く、十分に理解しようともせず、来年には50歳を向けえようとしている。昨年末の病気入院を機に、昭和に焦点を当てた読書を目指してきた。6ヶ月ほどの間に随分な量になる。出来るだけ多方面からのアプローチをと考え、政治史のみならず文化史、生活史などの面からも考えるように努めてきた。しかしまだよく分からない。結局“戦争”そのものを扱ったものを読まないと昭和を理解することは出来ないのかもしれないと思っている。
本書は満洲事変を主導し、太平洋戦争に突入する際に東條英機と対立し、罷免された元軍人がまとめた「戦争論」の本である。当時の指導部の思想的、歴史的背景を知るためにチャレンジしてみた。本文114頁、解説10頁の小さな本であるが、指導部にあった人が書いたものなので直接的にその考え方を知るのに重要かと思った。
著者は陸軍大学校卒業から陸大教官、関東軍参謀、罷免後郷里の山形県鶴岡市に戻り、東亜連盟を指導、敗戦後は全面的戦争放棄を唱えた。戦史研究と日蓮宗の信仰というバックボーンを持つヘンな人、戦後は“転向”したのか戦争放棄となんだか無責任な元軍人に思えるが・・・・・・。この人の名前だけは知っていたが、どんなことをしてどう評価されているのは全く知らない。実際この時期の軍人、政治家関係は全く知らないという情けない状況なので、“昭和が分からない”のも仕方が無いのであるが・・・。
本書が書かれたのは昭和15年であり、まだ日本が太平洋戦争に突入する以前のことである。従って第2次世界大戦の評価とかナチスドイツの功罪に付いての記述は含まれていない。日独伊三国同盟の関係からかドイツを高く評価しており、特にヒットラーの軍事的戦術、国内政策などを称賛する記述が散見される。また軍人故のことかもしれないが、経済、政治面での考察が殆ど無く、軍隊一辺倒である。当時の軍人出身の指導者は皆こんなだったのだろうかと思ってしまった。だから他の軍人出身政治家のことも知らなければと思っている。以前に東條英機については1冊読んだ。他には岡田啓介なども同シリーズから回顧録が出ているのであたってみるべきと思う。
タイトルにある最終戦争論とは、第二次欧州大戦*1の後50年以内に、世界の覇権をかけた世界戦争が起こり、その結果『世界統一』が実現するという考え方に基づいている。この世界統一を成しとけるための戦争が『最終戦争』であるという。著者によれば、この最終戦争は世界の四大勢力、①欧州連合*2、②ソ連とその勢力圏*3、③米州*4、④東亜*5の内、③と④の間で引き起こされ、結局日本を中心とする④が勝利を得、統一世界が実現されるというもの。そのためには、大連合運営の考え方・方針を確立することと物資生産の拡充、科学技術の推進による兵器の開発が不可欠であると説く。結局戦争を推進・拡大し、日本が世界を支配するための“理論的根拠”を国民や軍部に示そうとしたものらしい。皇国史観という言葉があるが、どうもこの延長線上に世界支配を目指した路線、特に軍事路線を“展開”した感がある。
さてこれをどう評価するか?私にはちょっと難しい。幾つかの問題点を挙げることは出来るがそれでは全く不十分だろう。現代的な価値観しか持ち合わせてない私がその当時、昭和15年当時の政治的・軍事的思想を評価するにはもっとその当時を知らなければいけないと思っている。とりあえず今回はその当時の軍部の動きや考え方がどんなだったかを知るだけにして、評価や論評は後日という事にしたい。これは一生モノのことだから・・・・・・。
巻末の松本健一氏による解説に、当時の“超国家的政治思想”に関する論考がある。そういえば丸山眞男などもこの辺の議論をしていたはずだし、北一輝その他の思想家が挙げられているので、彼らの著作が参考になろうかと思っている。
最後にもう一つだけ、この中公文庫BIBLIO20世紀シリーズは昭和前半期の資料の宝庫である。まだ出版点数は少ないが、実に貴重なもの、価値の高いものが入っているように思う。更なる充実を念じている。
【目次】
第一部 最終戦争論 ・・・ 9
 第一章 戦争史の大観 ・・・ 10 
  第一節 決戦戦争と持久戦争 ・・・ 10 / 第二節 古代及び中世 ・・・ 12 /
  第三節 文芸復興 ・・・ 13 / 第四節 フランス革命 ・・・ 17 / 
  第五節 第一次欧州大戦 ・・・ 22 / 第六節 第二次欧州大戦 ・・・ 28 
 第二章 最終戦争 ・・・ 32
 第三章 世界の統一 ・・・ 38
 第四章 昭和維新 ・・・ 48
 第五章 仏教の予言 ・・・ 53
 第六章 結び ・・・ 63
第二部 「最終戦争論」に関する質疑応答 ・・・ 71
解説 松本健一 ・・・ 115

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*1:世界大戦の前段階としてこの言葉を用いている。

*2:経済連合を主体とする現存のEUのようなものではなく、軍事的にバランスされた軍事同盟のようなものを想定しているようだ。

*3:旧東欧圏を指している。

*4:北中米の諸国、最終戦争時には、米国の政治的・軍事的支配下にあるという。

*5:これは現在でも当時の政治・経済・戦争・軍事体制などを議論する際に用いられる。皇国日本を中心とする東アジア、東南アジア諸国の大連合を指す。